全国の書店員による、おすすめ本のフリーペーパー「晴読雨読」通称"はれどく"の公式ブログです。


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『はれどく vol.10』 後編

⇒前編から続く



有楽町の食いしん坊・新井見枝香の
“ 読んでから食う? 食ってから読む? ”

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なんか美味しいもん食べたいね! なに食べたい? パンケーキかなぁ。パフェもいいね。
じゃあ食べログでしらべ……。

『ちょっと待ったーーー!!!』

女子高生が取り出したスマホをハンディモップでなぎ払い、有無を言わせずグルメガイドの棚に引っ張ってきた書店員は、胸に《くいしんぼう担当》というバッジを付けていた。
『あんたたち、せっかく本屋にいるんだから本で探しなさいよ!』
片方の女子高生は、書店員の親戚だった。
あ、オバサンじゃーん!
書店員はこの瞬間、姪に本を買わせることを固く決意した。
でもさー、タダで調べられるんだからぐるなびとかyahoo!グルメとかでよくない?
書店員も、飲み会の幹事になったり、出先でランチ難民になりそうな時はお世話になっていた。
しかし、違うのよ、少女たち。

『単行本の小説を選ぶように、本当に気に入ったグルメガイドを一冊選んでみなさい。大人のレディなら、バッグの底に必ず、忍ばせているものなのよ?』
フフフと微笑みハンディモップを羽根扇子のように振る書店員に惑わされたのか、女子高生二人は棚の前に立ち、おずおずと本に手を伸ばす。
『どこの誰が、どんな基準で選んだのか、どうして本を出すのかが明らかなものでないといけないわ。だから、著者名が表紙にしっかりと刻まれている本がいい。そこには、内容のすべてに私が責任を持つ、という作家の決意を感じるの』
自分の名前を冠した本に、偽りの写真を載せる人はいない。金を積まれて、美味しくない店を美味しいと言える人間は、そもそも作家になんてならない。もっと儲かる商売がある。
偏っていてもいい。蛇足が多くてもいい。グルメガイドも愛情だ。書く対象への圧倒的な愛情。
食べ歩くうちに、読者の愛情が染みこんで、本はくったりと珈琲色になる。紹介されたメニューの値段が変わり、店主が変わり、店がなくなって行く。
そうなればもう、グルメガイドとしては用をなさない。でも、いつまでも手元に置いておきたくなるのは、本が愛情のかたまりだからだ。

姪はトミヤマユキコさんの『パンケーキ・ノート』
姪の親友は斧屋さんの『東京パフェ学』を選んだ。
どちらも書店員のバイブルだった。

『え、私の定休日?』
書店員は、かわいい女の子二人に誘われて、もう有頂天だ。
月に一回くらいはご馳走してあげてもいいかな、なんてもう、思っている。

【三省堂書店 有楽町店(東京都)新井見枝香】



太陽はいつも雲の上に
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 しとしとと雨が降り続く日曜日(かな?)、退屈そうに窓から外を眺めていた女の子が、お母さんにおつかいを頼まれる。雨が降っているから嫌だと答えると(ワガママだなw)、お母さんは、傘をさして行けと言う。服が濡れるからと再度拒むと(ワガママだなw)、お母さんはレインコートを着て行けと言う。でも、でも、と尚も渋る女の子。さとうわきこさん『おつかい』は、大水になったら? 漂流中にお腹が空いたら? と、どんどんエスカレートする言い訳が子供に大ウケする筈。オチも笑えるし、解放感溢れる最終ページもかわいらしい。

 さて、お次は梅雨なのに「雨」がちっとも降らない話。重松清さん『カカシの夏休み』に登場するのは、同級生の葬式で二十二年ぶりに顔を合わせた四人の男女。山奥の中学を卒業してちりぢりになって、バブルに踊らされてバブルが弾けて、食いつなぐだけで精一杯の毎日に夢と気概を吸い取られて、いつの間にやらおっさん、おばさんになっていて……。
 だけど、久し振りの再会で気がついた。長い間忘れたふりをしてきたけれど、二十二年前捨てた筈の故郷の景色は、いつも心の奥の方で僕らを照らしてくれていた。その故郷が沈んでいる筈のダムが、カラ梅雨と猛暑の影響で干上がるかも知れない!? 「取水制限5%から10%に強化。ムダな抵抗はやめろ(笑)」なんて調子でメールをやり取りして、再び交流を始めた中年四人組は、故郷を見ることが出来るのか……。

 人生の艱苦、などという大袈裟な話ではなく、生活していくことの大変さをじんわりと描き、その大変なことを続けている人はみんなエライぞ、と励ましてくれるような、如何にも重松さんらしい中編。「幸せだけど、元気ではない人」と、「元気だけど、幸せではない人」に、強く強く薦めたい。

 三浦光世・綾子夫妻が、自分たちを励ましてくれた言葉の数々を紹介したエッセイ、『太陽はいつも雲の上に』(講談社文庫)は、残念ながら長らく版元品切れだけど、個人的なタイトルベストテンの、常に上位に位置する作品。そうだそうだそうなのだ! どんな大雨だろうが嵐だろうが、史上、やまなかった雨はないのだ! ってな訳で、人生土砂降りまっただ中の人に、野寺治孝さんの写真と石井ゆかりさんの詩のコラボ、『いつか、晴れる日』を贈りたい。いつかは晴れるゾとのエールを込めて。

【丸善 津田沼店(千葉県)沢田史郎】



「雨」の本あれこれ PART2
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『あめふりくまのこ』鶴見正夫 詩/高見八重子 絵 ひさかたチャイルド
テーマを聞いた時に直ぐに浮かんだのがこの絵本。昔、NHKの「みんなのうた」で放送された時よりクマの子が可愛くなってるような気がするのは私だけでしょうか? ページを捲りながらつい、口ずさんでしまうそんな絵本です。
【未来屋書店清水店(静岡県)前本浩美】

「羅生門」芥川龍之介 新潮文庫『羅生門・鼻』所収
「雨」と聞いて真っ先に頭に浮かんだのが、土砂降りの雨のなか一人の下人が羅生門の下で途方にくれているという『羅生門』の冒頭のシーン。今度どこにも出かけたくないほどの土砂降りの日がきたら芥川龍之介を読み返そう。
【治左衛門緑が丘店(大阪府)阪口功一】

『地下街の雨』宮部みゆき 集英社文庫
七編からなる短編集。表題作『地下街の雨』は、挙式二週間前に破談にされた麻子が主人公。地下街にいると雨が降っていることに気づかない。裏切られたような、でも仕方なかったような長雨の時間を癒してくれます。
【明林堂書店 高城店(大分県)多田由美子】

『371+1 松任谷由実歌詞集』松任谷由実歌詞集 集英社
「雨の街を」「12月の雨」「冷たい雨」「天気雨」「雨に消えたジョガー」「パジャマにレインコート」「霧雨で見えない」「Blue Rain Blue」「虹の下のどしゃ降りで」「雨に願いを」。タイトルだけでもこんなにありますが、雨の曲で最初に頭に浮かんだのは「青いエアメイル」でした。因みに「雨音はショパンの調べ」の日本語歌詞もユーミンです。
【明林堂書店 大分本店(大分県)前畑文隆】



雨は、必ず上がる。
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 雨の匂いが苦手だ。むせかえるようなむわっとした空気を吸い込むと、肺の中から無気力が浸食してくるような気がしてきて雨の日はどうにもこうにもやる気が出ない。側溝の水溜まりへ長靴を突っ込んで遊んでいたあの頃の私のウォータープルーフのメンタルは一体いつ消えてしまったのだろうか。

 読み終わった後、心なしか本がしっとりと湿っているような錯覚を覚えたのが原田マハさんの『異邦人』(PHP研究所)。原発事故後、お腹の子どもへの影響を懸念して京都へやってきた私設美術館の副館長菜穂と、無名の若き女性画家白根樹との運命の出会い。夫のたかむら画廊専務の一樹と、菜穂の母であり画廊の上得意客である克子とのねっとりとした大人の駆け引き。京都の美しい暮らしぶりとは裏腹に画壇で繰り広げられる男と女、金と才能をめぐるいざこざが終始作中に霧雨のように降り続く。梅雨の鬱陶しさでさえも作品の濃度を損ねることができない大人の物語だが、作中に登場する樹の描いた「青葉」という作品が梅雨の晴れ間のような一服の清涼感をもたらしてくれる。小説なだけに想像でしか補う事ができないのがなんとも悔しい。

 葬儀の日に降る雨を「涙雨」と呼ぶが、雨は外で降るものばかりではない。大切な人を亡くせば、私たちの心にも雨が降る。井上理津子さんの『葬送の仕事師たち』(新潮社)は、葬儀社や火葬場、エンバーマーといった聞きなれない遺体の復元作業まで、身近でありながら詳しく知りえなかった葬儀業界で働く人々の生の声を綴ったルポである。日々の仕事として「人の死」と向き合うというのは一体どういうことなのだろうか。誰しもがいつかは必ず迎えるその日について、お葬式を外側から見る事のできる貴重な機会を与えてくれる一冊。

 小野不由美さんの『営繕かるかや怪異譚』(角川書店)は何度閉めても開く襖や、屋根裏にいるなにか、など住居にまつわる怪異を修繕することによって治める営繕屋のお話だが、この中の「雨の鈴」がぞわりとさせる。雨が降る日にだけ現れる喪服の女。女は見かけるたびに角を曲がり少しずつ進んでいて、このままだと我が家へ向かってきてしまう。怖いだけではなく、人の心の機微をも汲み取る連作短編集。憂いはいつか晴れる。雨は、必ず上がる。

【成田本店 みなと高台店(青森県)櫻井美怜】



雨をみたかい
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雨の中、半身を川に沈めたアメリカ軍の兵士たち。川に浸さないように皆ライフルを肩に担ぎ一列になって川を渡っている。
雨に対してたちの悪いジョークに苦笑するような手前の兵士の表情。
フランスの報道カメラマン、アンリ・ユエが写したベトナム戦争の一枚の写真。
ベトナム戦争で犠牲になった報道カメラマンの遺作集である写真集『レクイエム』(集英社・絶版)では泥にまみれた兵士たちの姿が多く映し出されている。

インドシナ半島東岸にあるベトナムはモンスーン気候に属し、長い雨期がある。
アメリカにとってベトナム戦争は「泥沼」という言葉で言い表される。
それは政治的な意味合い以上に、戦場で戦った兵士たちにとっては文字通り雨と泥沼での戦争であった。
※ちなみに当時のヒット曲で反戦の歌と解釈されていたクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)の歌も『雨をみたかい』だったりもする。

〝 雨は戦争と同じなんだ、お前はそれと戦わなくてはならないんだ 〟

そんな言葉が作中に登場するのが、
ティム・オブライエンの『本当の戦争の話をしよう』(文春文庫)収録の一篇、「イン・ザ・フィールド」だ。
雨の中、泥の中を行軍する十八名のアメリカ軍の小隊。
降りしきる雨の中、ジャングルで泥水に沈んだ死んだ仲間を探す兵士たち。
雨と泥にまみれ、敵から攻撃される兵士たち。恋人の写真を失くし狼狽する兵士。死んだ兵士の両親へ書く手紙の文面を考え続ける隊長。くだらない話を喋り続ける兵士。
降りしきる雨と泥、そして汚物まみれの状況はベトナム戦争のアイコンとして強烈な印象を残す短篇である。

著者は実際にベトナム戦争に兵士として従軍しているが、本書はフィクションである。
どこまでが事実で、どこがフィクションなのか。このメタフィクション的構造が戦争というものの本質を浮かび上がらせる。訳者の村上春樹が言うところの 〝 比喩的な装置としての戦争 〟 が語られる必読の連作短篇集だ。

今年はベトナム戦争終戦から四十年にあたる。
半世紀前、雨で洗い流されるにはあまりに多くの血がベトナムで流されたのである。

【進駸堂 中久喜本店(栃木県)鈴木毅】



店長・成川真の “ 右往左往 ”
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 しとしとと降り続ける雨。
 出かけるのも億劫だし、気も滅入る。いやいや、そんな時こそ読書でしょ。
 『晴耕雨読』っていうじゃないですか。このフリーペーパーは晴れの日も読めっていうけれども、ともかく雨の日には読書に限る。
 雨の音にかき消されて、窓の外の音が小さくなって、そんな中で読む本って、なんか違う。科学的に解明すればまあ、光度がどうとか、集中力がどうとかの話かもしれないけれど、昔から、雨の日に本を読むって、雰囲気自体がすごく好き。
 だから雨の季節もそう悪くない。
 本を読むことに関しては。

 でも、売る方となるとまた違うんですよね。一般的に外出が減るから売上がどうこう、ってのはもちろんあるんですけど、一番アイタタタなのは あ ま も り 。
 かつて勤めていたとあるお店で雨漏りの被害にあいましてね。壁を伝ってきた雨水が、棚の後ろを伝い、商品の本が濡れてしまった。本にとって水はご法度中のご法度。ぶよぶよと膨れ上がって波打って、とてもじゃないけど売り物にならない。
 知り合いに聞いてみると、けっこうあるみたいですね、雨漏り。ある! ある! ある! ある! って一昔前にやっていた『クイズ100人に聞きました』ばりの声が……え? 知らない? ジェネギャ?

 とにもかくにも、本にとっての天敵は水ですから、あわてて商品を撤去して、棚を拭いて。雨がやんだら屋上に登って防水の処理なんかしてね。ああ、これ、テナントだとオーナーさんがやってくれたりします。
 台風の時とか、床一面が海のようになったことがあって、ぞうきんで拭いてバケツで絞っての繰り返し。とてもじゃないけど本を売れるような状況じゃないぞ、ってことも経験したりしました。
 滑りやすい床だったりすると、傘からしたった水滴のせいでより滑るから、お客さんが転ばないように、数分おきに店内をモップで行ったり来たりすることも。実は雨の日って、お客さんの数は少なくても、本屋さん的には大忙しだったりします。

 でも逆に、そんな時に来ていただいているお客さんを見ると、いつも以上にありがたく思ってしまったり。お買い上げの方が濡れないように、ビニールの袋に入れて、口を閉じて、反対向きにしてもう一度袋にいれたりして。
 せっかく雨の日に買いに来ていただいたわけですから、絶対に濡らすわけにはいかない! 雨水を完全ブロック! の気持ちで臨みます。
 そんなわけで、雨の日には、いつもと違う形でがんばる書店員の姿を眺めてみるのも、また本屋の楽しみの一つかもしれません。

 さてさて、最後に一つだけ豆知識を。

 せっかく買った本を濡らしちゃった! ぶくぶく膨れて波打って! 悲しいよぅ! と、そんな風になってしまったら、『冷凍庫』に一晩いれてみましょう。水分が凍結するとアレがアアなってコウなって、ともかく、本がしゃんとして復活するんです。騙されたと思って一度、お試しあれ。

【BOOKPORT(神奈川県)成川・裸・真】



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by haredoku | 2015-07-06 11:48 | 『はれどく vol.10』