
全国の書店員による、おすすめ本のフリーペーパー「晴読雨読」通称"はれどく"の公式ブログです。
by haredoku
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『はれどく vol.11』
『はれどく vol.10』
『はれどく 別冊』私の本屋大賞
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『はれどく vol.10』 前編
表紙

突発エッセイ 本屋の話

『ドラゴンボール』の2巻が発売した頃、小学五年生が終わり僕は転校した。新しい土地で友だちのいない春休みを過ごしていた僕にとって、救いは歩いて5分の距離にあった新刊書店だった。
その店は10坪ほどのこじんまりした構えで、雑誌とコミック、少々の文庫と書籍がある、本当に小さな書店だった。
レジも半畳ほどのスペースで奥にトイレがあるだけで、いつも店長が独りでレジに座っていた。
当時はコミックにビニールパックなんてものはなく、なんでも読み放題だった。僕は毎日、日が暮れるまでその店でコミックを立ち読みしていた。
毎日一人で顔を出す寂しい子どもに同情したのか、店長はよく声をかけてくれて、ちょくちょく会話を交わすようになった。そしていつしかレジの中で座ってコミックを読ませてくれるようになった。レジの中に入ると本屋の店員になった気がしてとても嬉しかった。
昼時になると店長からお金を渡され、近所のショッピングセンターのフードコートへたこ焼きを買いに行かされた。
レジの中で二人してたこ焼きを食べながらいろいろな漫画のことを話した。
中学生になってもその書店には通い続けた。ちょっとエロに興味が出始める年頃だ。
僕はコミック棚の前でさりげなく手にとったつもりの叶精作の『ブラザーズ』を、これまたさりげなく会計を済ませた。
背徳と興奮に胸とかいろんなものを膨らませて家に帰り、紙袋からコミックを取り出すと、一緒に紙切れが入っていた。そこには手書きで「タケシのスケベ」と書いてあった。
今、この書店は無い。
店長はその後どうしているかも分からない。そう言えば名前も知らない。
僕を憶えているだろうか。
僕が書店で働いていることを知ったらどう思うだろう。
喜んでくれるだろうか。
あの時のように同情するのだろうか。
いずれにしろ『ブラザーズ』の一件だけは忘れていて欲しいと思う。
ふと自分の仕事を振り返ると、いつもあの時の書店を思い出す。
【進駸堂 中久喜本店(栃木県)鈴木毅】
『はれどく vol.10』 目次

雨降りだって “ いい天気 ”

あっめあっめ ふっれふっれ かぁさんが~♪
などと鼻歌を口ずさみつつ思い出したのは、『おじさんのかさ』(佐野洋子 作・絵 講談社)。とっても立派な傘を持っているおじさんは、晴れていてもとにかくいつでも傘を持ち歩きます。少しの雨では傘は濡れちゃうと困るので差しませんし、大雨が降ってもやっぱり「傘がぬれるから」とさしません。ある雨の日に、小さな子どもから「傘に入れて」と頼まれて、はてさておじさんはどうしたでしょうか。傘は……やっぱり差さなきゃ、ですよねえ。だけど一旦「こうする!」と決めた大人を動かすのもたやすくありませんね。佐野さんの描く物語は子どもはもちろん大人をも思わず納得させててしまうほど、不思議にわかりやすくどの目線にも優しく腑に落ちて納得できるお話ばかりです。
せっかくの遠足の日が雨降りだったら……。楽しみにしていたのに朝から雨……。やっぱり晴れた日に出かけられるほうがいい! と思っちゃいますよね。『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』(ひさかたチャイルド)でもおなじみの間瀬なおかたさんが、『あめのひのえんそく』(同)で雨の中のバス遠足をとても楽しくきれいに描いていらっしゃいます。結末もなかなか素敵です。わくわくする仕掛けもあります。こんな遠足だったら雨に日に行ってもいいなあ~と、思わず「遠足は晴れた日に」という意見を翻しちゃいましたよ(笑)。
変化球と言ってしまうとそうなんですが、実は雨というテーマをいただいた時に真っ先に思い出したのが漫画家・雨隠ギド氏のお名前。ファンタジー『ファンタズム』も家族モノ『甘々と稲妻』もBL『青年発火点』 『火傷と爪痕』などなども、どのジャンルでも素敵な感性と懐かしさをも感じさせる筆致そして画力でありきたりの日常を、その中に潜む様々な想いを、聞き逃してしまいそうな人々の声を、読者へ向けて描き出していて優しい気持ちを思い起こされ、癒されます(BL作品も読んでいて癒されます!)。
【七五書店(愛知県)森晴子】
雨降りの日は本と飲み物でまったりと

「雨」と聞いてすぐに連想したのが小泉今日子の『優しい雨』。元気いっぱいな曲調が多かった彼女のイメージがガラリと変わった切ない歌です。たまにカラオケでは唄います、って聞いてないわ! はいはい。
狐の嫁入り、菜種梅雨など雨と付く言葉は数々あります。そんな雨にまつわる言葉を集めた1冊を。『雨のことば辞典』(講談社学術文庫)。季語や方言もあるので読み物としても面白いのでは。ことば辞典と言いながら雨の降る仕組みも載ってます。至れり尽くせり。
彼がやって来る時は必ず雨が降っていた。相手との距離をはかりつつも何処か人懐こい部分を残した彼の正体は「死神」。『死神の精度』(文春文庫) 伊坂幸太郎の作品ではベスト3に入ります(個人の感想です)。CDショップの試聴コーナーに佇む死神たち、想像すると不思議な感じ。各々が独立した物語なのに読み進めていくとある仕掛けに気付きます。最後の章には死神・千葉さえも驚くシーンが、おっとこれは読んでからのお楽しみ。映画では死神役を金城武が演じてましたがこのキャスティングは割と好みでしたね。
ミステリには水モノが似合うと思う。名探偵もしくは警察官でもいいや、皆を集めて「さて」と謎解きの場面に雪やら雨、断崖絶壁荒波ドババーン! 二時間ドラマだけじゃないでしょ、このシュチュエーション。あれ、川とか沼は……それはさておき。物語の舞台はアイスランドの北の湿地にあるアパート、老人の死体が発見された事から始まる。「ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人」かと思われた事件は見当もつかない真実へとたどり着く。紆余曲折を経て真犯人の前に立つ捜査官、彼等の身体を包むのはそぼ降る雨。体温を奪うのは雨のせいだけではないのです、ぞわぞわ。『湿地』アーナルデュル・インドリダソン、五月に文庫化です。
雨振りの日はうちで雨音に耳を傾けながらお好みの飲み物と本でまったりしたいなあ。【紀伊國屋書店 名古屋空港店(愛知県)山崎蓮代】
「雨」の本あれこれ PART1

『アルパカかあさん』三谷知子 秋田書店少年チャンピオン・コミックス ・タップ!
マーくんはフツーの高校生、だけど母さんはアルパカ?! この母さん風呂上がりのドライヤーを手抜きし買物先のスーパーで漂う獸臭に消臭スプレーで対抗。かえって悲惨な事態を招きマーくんからとどめの一撃を喰らってしまうのです。そんな梅雨のエピソードは17話。
【黒木書店 白水店(福岡県)原田みわ】
『日本の分水嶺』堀公俊 ヤマケイ文庫
水に恵まれている島国、日本。その水の源である雨は、どこに降ったかで日本海側と太平洋側のどちらの海に流れ出でるかが決まっています。その境界線である分水嶺。あなたも知らずに通っているかもしれません。
【紀伊國屋書店 横浜みなとみらい店(神奈川県)安田有希】
『透明カメレオン』道尾秀介 KADOKAWA
雨の日から始まるこの物語は本当の家族と家族のような仲間たちが自分の深い傷を埋めるため、そして誰かを守るため、悲しい嘘をつく。それぞれの嘘が語られていくラスト、やめてやめて、と叫ぶ心に雨が降っていた。
【精文館書店 中島新町店(愛知県)久田かおり】
『空の絵本』長田弘 作/荒井良二 絵 講談社
もくもくとした雲と青空の表紙をめくると「あっ 雨」森の中は雨が強くなります。「だ」と「だん」で雨も雷も表現できるなんて! 雨上がりのこぼれるしずくや色が戻る森にうっとり。よし夜空も見てみよう!
【文教堂 北野店(北海道)若木ひとえ】
歴史を見届けた雨

小説は想像力を刺激してくれる。初めて知る世界も知った気になれる。更には体験していれば更に深く小説の世界を理解できる。
そこで「雨」である。誰もが知る、体験している雨を小説で感じる。
冷たく纏わりつき、身体を凍えさせ、熱くもする雨。
読んで、かつその舞台に立って初めて伝わる寒さ、絶望感、恐怖。
より深く識る為に体感する! この事こそが人員不足の中連休を取り店から抜け出す格好の理由づけではないだろうか? そんな店長の選ぶ「雨を感じる歴史小説(幕末~明治編)ベスト3」を需要もないのに勝手に供給。
3位『彰義隊遺聞』森まゆみ(新潮文庫)(絶版)
わずか一日で終結した上野戦争は雨天の中行われた。ひそかに語り継がれた有名・無名の人物の証言を丹念に拾い集めた作品。小雨の降る中、上野の山を三時間彷徨い最大の激戦地「黒門口」を探すもブルーシートのおっちゃんに「去年取り壊したでw」。この作品と共に惜しいものを失くしたと言えよう。
2位『会津士魂⑫』早乙女貢(集英社文庫)
正編十三巻続編八巻で幕末から明治の会津藩の苦難の歴史を描いた名作。
雨で浮かぶのは「白虎隊」それも飯盛山ではなく戸の口原が雨を体感出来る!
(いつになったら、敵が攻めてくるのか)
凝っと雨に濡れて待っている時間がやけに長いものに感じられた
戸の口原は少し盛り上がった台地に慰霊塔や碑が立ち並ぶも遮蔽物の無いただの原っぱ。予備軍だったはずが急遽襲ってきた敵に対し応援として回せる戦力は白虎隊のみしかなかった悲劇。それまで自分たちを支えてくれていたモノが無くなり、雨に濡れ辺りは闇に包まれ腹は空く。本当に何もない場所ですが「うわ~~~~」ってなります。
1位『翔ぶが如く⑨』司馬遼太郎(文春文庫)
西南戦争と言えば田原坂は外せない。
俗謡にある♪雨は振る振る人馬は濡れる 越すに越されぬ田原坂……まぁ行ったのは最近ですけれどね。色々遠いんですもん。参考資料として『田原坂』海音寺潮五郎(文春文庫)、『街道をゆく③』司馬遼太郎(朝日文庫)等で多角的に舞台を知ってはいたものの。実際に田原坂に立つリアルの圧倒感。百数十年前から見ていた樹木もあり薩摩藩防衛線から見下ろすと山の稜線を埋め尽くす官軍のダンブクロがありありと浮かびます。
『ウォーズ・オブ・ジャパン 日本のいくさと戦争』磯田道史 監修(偕成社)にも田原坂の戦いが描かれています。武士の時代の終わりを告げた戦と呼ばれるこの戦いで、流された血も近代日本と言う豪雨に流されてしまったのでしょう。
ちなみに現地の若者にはこれらの地全てが「心霊スポット」として知られているようですが、その話はまた別の機会に。
【サクラ書店 ラスカ平塚店(神奈川県)栁下博幸】
本棚に空いた闇へと店員が差し入れている罪と罰<上>
(木下龍也「つむじ風、ここにあります」より)

去年僕は、まったくの初心者状態から一年間だけ短歌をやりました。これが予想以上に面白くて、結構ハマりました。たぶん、500首~700首ぐらいは作ったと思います。みなさんもさあ、Let‘s 短歌!
●【一人閉じ それを見てまた一人閉じ 最初に傘を閉じたのは誰(中山雪・女・25歳)】 穂村弘『短歌ください その二』(KADOKAWA):雑誌『ダ・ヴィンチ』の連載をまとめた作品。若い人の作品が目立つ。僕も二度採用されました。「雨の終わり」を、こんな風に謎めいた光景として見せてくれる。何でもない日常がくるりと反転する。【新しい文庫の角が折れました それだけで止まらないなみだは(シラソ・女・26歳)】コップへの最後の一滴が「角が折れ」たこと。泣くほどではないだろうということだからこそ、その大事さが際立つ。
●【救急車の形に濡れてない場所を雨は素早く塗り消してゆく】 木下龍也『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房)1988年生まれ。2011年から作歌開始。前出の『短歌ください』の常連。僕はこの方の歌がかなり好きです。映像喚起力がとても強い。誰もが情景をパッと浮かべられるだろう。映画のワンシーンであるかのよう。前後にどんなストーリーを読み取るかは、読み手の自由だ。【仰向けに寝て新刊を開いたら僕の額に栞が刺さる】なんということはない一瞬の描写から、グッと掴まれる共感力が生まれているのは何故だろう。
●【「雨だねぇ こんでんえいねんしざいほう何年だったか思い出せそう?」】 笹井宏之『ひとさらい』(書肆侃侃房)「彗星のように現代短歌を駆け抜けた」と称され、若くして急逝した現代歌人。仲の良い二人の会話、と読んでも微笑ましいけど、思い出せなかったら殺されてしまう、という脅迫の場面と読んでみる。「こんでん~」が平仮名であるところに、どことなく理屈の通じない狂気を感じるのだ。【「いま辞書とふかい関係にあるからしばらくそっとしておいて。母」】そんな風に言われると、「母」の言う「辞書」は、僕たちが知っているものとはまるで違った何かなのではないかと思える。「母」の存在そのものさえが揺らぐようだ。
●最後に、自作の短歌をば。
秋雨は一粒に1ビットずつラピュタの秘密を溶かしこんでる
お粗末様でした。
【黒夜行】
「雨」の本あれこれ PART2

『九マイルは遠すぎる』ハリー・ケメルマン/永井淳 訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」
ふと浮かんだこの文章から推理を重ね、現実の事件まで解決するニッキイ・ウェルト教授。雨が降るとこれを連想するので、私の周りでも何か事件が起こってるかも?
【啓文社 ゆめタウン呉店 三島政幸】
『ふれ、ふれ、あめ!』カレン・ヘス 作 ジョン・J・ミュース 絵/さくまゆみこ 訳 岩崎書店
日照りが続く真夏の町。ようやく降ってきた雨を全身で喜ぶ人々の様子が美しい水彩画と詩的な文章で描かれた絵本です。憂鬱で鬱陶しいイメージの雨だけど、こんな風に楽しめたら雨も悪くないな。
【蔦屋書店 イオンモール幕張新都心(千葉県)後藤美由紀】
『バムとケロのにちようび』島田ゆか 文渓堂
雨の日って憂鬱だけど、おいしいおやつを用意して好きな本を好きなだけ読めたら最高だと思います。屋根裏部屋の本棚もステキ!ただ、うじゃうじゃいる虫とネズミはご勘弁・・・。あ、おいしい絵本も出てますよ!
【ユカゴ】
『晴れときどき涙雨』高田郁 幻冬舎文庫
「雨」がテーマとのことでこのタイトルを。トークショーなどでもお話は伺っておりますが、作品に対する取材や困難を乗り越えてこられた気持ちの強さと人柄を改めて感じられます。壁にぶち当たった時にはこの1冊。
【ブックスアルデ 近鉄店(三重県)吉川佐和子】
後編に続く⇒

突発エッセイ 本屋の話

『ドラゴンボール』の2巻が発売した頃、小学五年生が終わり僕は転校した。新しい土地で友だちのいない春休みを過ごしていた僕にとって、救いは歩いて5分の距離にあった新刊書店だった。
その店は10坪ほどのこじんまりした構えで、雑誌とコミック、少々の文庫と書籍がある、本当に小さな書店だった。
レジも半畳ほどのスペースで奥にトイレがあるだけで、いつも店長が独りでレジに座っていた。
当時はコミックにビニールパックなんてものはなく、なんでも読み放題だった。僕は毎日、日が暮れるまでその店でコミックを立ち読みしていた。
毎日一人で顔を出す寂しい子どもに同情したのか、店長はよく声をかけてくれて、ちょくちょく会話を交わすようになった。そしていつしかレジの中で座ってコミックを読ませてくれるようになった。レジの中に入ると本屋の店員になった気がしてとても嬉しかった。
昼時になると店長からお金を渡され、近所のショッピングセンターのフードコートへたこ焼きを買いに行かされた。
レジの中で二人してたこ焼きを食べながらいろいろな漫画のことを話した。
中学生になってもその書店には通い続けた。ちょっとエロに興味が出始める年頃だ。
僕はコミック棚の前でさりげなく手にとったつもりの叶精作の『ブラザーズ』を、これまたさりげなく会計を済ませた。
背徳と興奮に胸とかいろんなものを膨らませて家に帰り、紙袋からコミックを取り出すと、一緒に紙切れが入っていた。そこには手書きで「タケシのスケベ」と書いてあった。
今、この書店は無い。
店長はその後どうしているかも分からない。そう言えば名前も知らない。
僕を憶えているだろうか。
僕が書店で働いていることを知ったらどう思うだろう。
喜んでくれるだろうか。
あの時のように同情するのだろうか。
いずれにしろ『ブラザーズ』の一件だけは忘れていて欲しいと思う。
ふと自分の仕事を振り返ると、いつもあの時の書店を思い出す。
【進駸堂 中久喜本店(栃木県)鈴木毅】
『はれどく vol.10』 目次

雨降りだって “ いい天気 ”

あっめあっめ ふっれふっれ かぁさんが~♪
などと鼻歌を口ずさみつつ思い出したのは、『おじさんのかさ』(佐野洋子 作・絵 講談社)。とっても立派な傘を持っているおじさんは、晴れていてもとにかくいつでも傘を持ち歩きます。少しの雨では傘は濡れちゃうと困るので差しませんし、大雨が降ってもやっぱり「傘がぬれるから」とさしません。ある雨の日に、小さな子どもから「傘に入れて」と頼まれて、はてさておじさんはどうしたでしょうか。傘は……やっぱり差さなきゃ、ですよねえ。だけど一旦「こうする!」と決めた大人を動かすのもたやすくありませんね。佐野さんの描く物語は子どもはもちろん大人をも思わず納得させててしまうほど、不思議にわかりやすくどの目線にも優しく腑に落ちて納得できるお話ばかりです。
せっかくの遠足の日が雨降りだったら……。楽しみにしていたのに朝から雨……。やっぱり晴れた日に出かけられるほうがいい! と思っちゃいますよね。『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』(ひさかたチャイルド)でもおなじみの間瀬なおかたさんが、『あめのひのえんそく』(同)で雨の中のバス遠足をとても楽しくきれいに描いていらっしゃいます。結末もなかなか素敵です。わくわくする仕掛けもあります。こんな遠足だったら雨に日に行ってもいいなあ~と、思わず「遠足は晴れた日に」という意見を翻しちゃいましたよ(笑)。
変化球と言ってしまうとそうなんですが、実は雨というテーマをいただいた時に真っ先に思い出したのが漫画家・雨隠ギド氏のお名前。ファンタジー『ファンタズム』も家族モノ『甘々と稲妻』もBL『青年発火点』 『火傷と爪痕』などなども、どのジャンルでも素敵な感性と懐かしさをも感じさせる筆致そして画力でありきたりの日常を、その中に潜む様々な想いを、聞き逃してしまいそうな人々の声を、読者へ向けて描き出していて優しい気持ちを思い起こされ、癒されます(BL作品も読んでいて癒されます!)。
【七五書店(愛知県)森晴子】
雨降りの日は本と飲み物でまったりと

「雨」と聞いてすぐに連想したのが小泉今日子の『優しい雨』。元気いっぱいな曲調が多かった彼女のイメージがガラリと変わった切ない歌です。たまにカラオケでは唄います、って聞いてないわ! はいはい。
狐の嫁入り、菜種梅雨など雨と付く言葉は数々あります。そんな雨にまつわる言葉を集めた1冊を。『雨のことば辞典』(講談社学術文庫)。季語や方言もあるので読み物としても面白いのでは。ことば辞典と言いながら雨の降る仕組みも載ってます。至れり尽くせり。
彼がやって来る時は必ず雨が降っていた。相手との距離をはかりつつも何処か人懐こい部分を残した彼の正体は「死神」。『死神の精度』(文春文庫) 伊坂幸太郎の作品ではベスト3に入ります(個人の感想です)。CDショップの試聴コーナーに佇む死神たち、想像すると不思議な感じ。各々が独立した物語なのに読み進めていくとある仕掛けに気付きます。最後の章には死神・千葉さえも驚くシーンが、おっとこれは読んでからのお楽しみ。映画では死神役を金城武が演じてましたがこのキャスティングは割と好みでしたね。
ミステリには水モノが似合うと思う。名探偵もしくは警察官でもいいや、皆を集めて「さて」と謎解きの場面に雪やら雨、断崖絶壁荒波ドババーン! 二時間ドラマだけじゃないでしょ、このシュチュエーション。あれ、川とか沼は……それはさておき。物語の舞台はアイスランドの北の湿地にあるアパート、老人の死体が発見された事から始まる。「ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人」かと思われた事件は見当もつかない真実へとたどり着く。紆余曲折を経て真犯人の前に立つ捜査官、彼等の身体を包むのはそぼ降る雨。体温を奪うのは雨のせいだけではないのです、ぞわぞわ。『湿地』アーナルデュル・インドリダソン、五月に文庫化です。
雨振りの日はうちで雨音に耳を傾けながらお好みの飲み物と本でまったりしたいなあ。【紀伊國屋書店 名古屋空港店(愛知県)山崎蓮代】
「雨」の本あれこれ PART1

『アルパカかあさん』三谷知子 秋田書店少年チャンピオン・コミックス ・タップ!
マーくんはフツーの高校生、だけど母さんはアルパカ?! この母さん風呂上がりのドライヤーを手抜きし買物先のスーパーで漂う獸臭に消臭スプレーで対抗。かえって悲惨な事態を招きマーくんからとどめの一撃を喰らってしまうのです。そんな梅雨のエピソードは17話。
【黒木書店 白水店(福岡県)原田みわ】
『日本の分水嶺』堀公俊 ヤマケイ文庫
水に恵まれている島国、日本。その水の源である雨は、どこに降ったかで日本海側と太平洋側のどちらの海に流れ出でるかが決まっています。その境界線である分水嶺。あなたも知らずに通っているかもしれません。
【紀伊國屋書店 横浜みなとみらい店(神奈川県)安田有希】
『透明カメレオン』道尾秀介 KADOKAWA
雨の日から始まるこの物語は本当の家族と家族のような仲間たちが自分の深い傷を埋めるため、そして誰かを守るため、悲しい嘘をつく。それぞれの嘘が語られていくラスト、やめてやめて、と叫ぶ心に雨が降っていた。
【精文館書店 中島新町店(愛知県)久田かおり】
『空の絵本』長田弘 作/荒井良二 絵 講談社
もくもくとした雲と青空の表紙をめくると「あっ 雨」森の中は雨が強くなります。「だ」と「だん」で雨も雷も表現できるなんて! 雨上がりのこぼれるしずくや色が戻る森にうっとり。よし夜空も見てみよう!
【文教堂 北野店(北海道)若木ひとえ】
歴史を見届けた雨

小説は想像力を刺激してくれる。初めて知る世界も知った気になれる。更には体験していれば更に深く小説の世界を理解できる。
そこで「雨」である。誰もが知る、体験している雨を小説で感じる。
冷たく纏わりつき、身体を凍えさせ、熱くもする雨。
読んで、かつその舞台に立って初めて伝わる寒さ、絶望感、恐怖。
より深く識る為に体感する! この事こそが人員不足の中連休を取り店から抜け出す格好の理由づけではないだろうか? そんな店長の選ぶ「雨を感じる歴史小説(幕末~明治編)ベスト3」を需要もないのに勝手に供給。
3位『彰義隊遺聞』森まゆみ(新潮文庫)(絶版)
わずか一日で終結した上野戦争は雨天の中行われた。ひそかに語り継がれた有名・無名の人物の証言を丹念に拾い集めた作品。小雨の降る中、上野の山を三時間彷徨い最大の激戦地「黒門口」を探すもブルーシートのおっちゃんに「去年取り壊したでw」。この作品と共に惜しいものを失くしたと言えよう。
2位『会津士魂⑫』早乙女貢(集英社文庫)
正編十三巻続編八巻で幕末から明治の会津藩の苦難の歴史を描いた名作。
雨で浮かぶのは「白虎隊」それも飯盛山ではなく戸の口原が雨を体感出来る!
(いつになったら、敵が攻めてくるのか)
凝っと雨に濡れて待っている時間がやけに長いものに感じられた
戸の口原は少し盛り上がった台地に慰霊塔や碑が立ち並ぶも遮蔽物の無いただの原っぱ。予備軍だったはずが急遽襲ってきた敵に対し応援として回せる戦力は白虎隊のみしかなかった悲劇。それまで自分たちを支えてくれていたモノが無くなり、雨に濡れ辺りは闇に包まれ腹は空く。本当に何もない場所ですが「うわ~~~~」ってなります。
1位『翔ぶが如く⑨』司馬遼太郎(文春文庫)
西南戦争と言えば田原坂は外せない。
俗謡にある♪雨は振る振る人馬は濡れる 越すに越されぬ田原坂……まぁ行ったのは最近ですけれどね。色々遠いんですもん。参考資料として『田原坂』海音寺潮五郎(文春文庫)、『街道をゆく③』司馬遼太郎(朝日文庫)等で多角的に舞台を知ってはいたものの。実際に田原坂に立つリアルの圧倒感。百数十年前から見ていた樹木もあり薩摩藩防衛線から見下ろすと山の稜線を埋め尽くす官軍のダンブクロがありありと浮かびます。
『ウォーズ・オブ・ジャパン 日本のいくさと戦争』磯田道史 監修(偕成社)にも田原坂の戦いが描かれています。武士の時代の終わりを告げた戦と呼ばれるこの戦いで、流された血も近代日本と言う豪雨に流されてしまったのでしょう。
ちなみに現地の若者にはこれらの地全てが「心霊スポット」として知られているようですが、その話はまた別の機会に。
【サクラ書店 ラスカ平塚店(神奈川県)栁下博幸】
本棚に空いた闇へと店員が差し入れている罪と罰<上>
(木下龍也「つむじ風、ここにあります」より)

去年僕は、まったくの初心者状態から一年間だけ短歌をやりました。これが予想以上に面白くて、結構ハマりました。たぶん、500首~700首ぐらいは作ったと思います。みなさんもさあ、Let‘s 短歌!
●【一人閉じ それを見てまた一人閉じ 最初に傘を閉じたのは誰(中山雪・女・25歳)】 穂村弘『短歌ください その二』(KADOKAWA):雑誌『ダ・ヴィンチ』の連載をまとめた作品。若い人の作品が目立つ。僕も二度採用されました。「雨の終わり」を、こんな風に謎めいた光景として見せてくれる。何でもない日常がくるりと反転する。【新しい文庫の角が折れました それだけで止まらないなみだは(シラソ・女・26歳)】コップへの最後の一滴が「角が折れ」たこと。泣くほどではないだろうということだからこそ、その大事さが際立つ。
●【救急車の形に濡れてない場所を雨は素早く塗り消してゆく】 木下龍也『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房)1988年生まれ。2011年から作歌開始。前出の『短歌ください』の常連。僕はこの方の歌がかなり好きです。映像喚起力がとても強い。誰もが情景をパッと浮かべられるだろう。映画のワンシーンであるかのよう。前後にどんなストーリーを読み取るかは、読み手の自由だ。【仰向けに寝て新刊を開いたら僕の額に栞が刺さる】なんということはない一瞬の描写から、グッと掴まれる共感力が生まれているのは何故だろう。
●【「雨だねぇ こんでんえいねんしざいほう何年だったか思い出せそう?」】 笹井宏之『ひとさらい』(書肆侃侃房)「彗星のように現代短歌を駆け抜けた」と称され、若くして急逝した現代歌人。仲の良い二人の会話、と読んでも微笑ましいけど、思い出せなかったら殺されてしまう、という脅迫の場面と読んでみる。「こんでん~」が平仮名であるところに、どことなく理屈の通じない狂気を感じるのだ。【「いま辞書とふかい関係にあるからしばらくそっとしておいて。母」】そんな風に言われると、「母」の言う「辞書」は、僕たちが知っているものとはまるで違った何かなのではないかと思える。「母」の存在そのものさえが揺らぐようだ。
●最後に、自作の短歌をば。
秋雨は一粒に1ビットずつラピュタの秘密を溶かしこんでる
お粗末様でした。
【黒夜行】
「雨」の本あれこれ PART2

『九マイルは遠すぎる』ハリー・ケメルマン/永井淳 訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」
ふと浮かんだこの文章から推理を重ね、現実の事件まで解決するニッキイ・ウェルト教授。雨が降るとこれを連想するので、私の周りでも何か事件が起こってるかも?
【啓文社 ゆめタウン呉店 三島政幸】
『ふれ、ふれ、あめ!』カレン・ヘス 作 ジョン・J・ミュース 絵/さくまゆみこ 訳 岩崎書店
日照りが続く真夏の町。ようやく降ってきた雨を全身で喜ぶ人々の様子が美しい水彩画と詩的な文章で描かれた絵本です。憂鬱で鬱陶しいイメージの雨だけど、こんな風に楽しめたら雨も悪くないな。
【蔦屋書店 イオンモール幕張新都心(千葉県)後藤美由紀】
『バムとケロのにちようび』島田ゆか 文渓堂
雨の日って憂鬱だけど、おいしいおやつを用意して好きな本を好きなだけ読めたら最高だと思います。屋根裏部屋の本棚もステキ!ただ、うじゃうじゃいる虫とネズミはご勘弁・・・。あ、おいしい絵本も出てますよ!
【ユカゴ】
『晴れときどき涙雨』高田郁 幻冬舎文庫
「雨」がテーマとのことでこのタイトルを。トークショーなどでもお話は伺っておりますが、作品に対する取材や困難を乗り越えてこられた気持ちの強さと人柄を改めて感じられます。壁にぶち当たった時にはこの1冊。
【ブックスアルデ 近鉄店(三重県)吉川佐和子】
後編に続く⇒
by haredoku
| 2015-07-06 11:49
| 『はれどく vol.10』
