全国の書店員による、おすすめ本のフリーペーパー「晴読雨読」通称"はれどく"の公式ブログです。


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『はれどく vol.9』 前編

表紙
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連載 有楽町の食いしん坊・新井見枝香の
〝 読んでから食う? 食ってから読む? 〟
【三省堂書店 有楽町店(東京都)新井見枝香】

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 みなさん、サラバ! 西加奈子さん、サラバ! 直木賞受賞おめでとう! そしてありがとう、サラバ! 危うくお店からサラバ! されるところでした。 サラバ! が受賞することを1ミリも疑っていなかった私は、直木賞発表の瞬間を、ただ店の中央にドンと阿呆のように、サラバ! だけを積んで待っていました。常連のお客様には、サラバ! が直木賞に間違いないから、今のうちに買っておいたほうがいいとアドヴァイスをし、取材に来たテレビカメラに向かって、サラバ!が受賞します! と大予言もかましました(台本完全無視)。受賞の瞬間泣き崩れた私の肩をポンと叩いた、ややどす黒い店長の顔色を、私は一生忘れてはいけないと思います。

 ところで私は、一日に最低二回は自分のことが嫌いで嫌いでどうしようもなくなるのですが、その時には必ず、サラバ! を思い出します。《僕は自分が嫌いだった。大嫌いだった。》よりによってそこ! しかもトイレの個室で諳んじては泣く……闇すぎる。私は世界でいちばん自分のことが大好きな人間だと思われがちですが、なんとびっくり! 自分のことが大大大嫌いなのです! あらギャップ萌え? そう、人は見かけによらない。人間って深いな。

 ということで、ギャップ萌え小説をひとつ、ご紹介します。柴崎竜人さんの『あなたの明かりが消えること』。柴崎さんは、日本人女性の九割がイケメンと答える美しい容姿であり、日本人男性の半数以上がイケスカナイと答えるだろう、超エリートな経歴の持主です。イケメン好きで有名な私が彼の作品をパワープッシュすることを、胡散臭く思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そこはプロの書店員、舐めてもらっては困ります。渋い。驚いたことに、とても渋い、大人の物語でした。彼の中には、爺さんが住んでいるのでしょうか。高級旅館の日本庭園に、静かに佇む一本の赤松。そしてその赤松を眺める孤独な仲居と、常連客である男性画家の、もどかしいほどにプラトニックな関係。 なんと美しい……。作家のイメージと小説の激しいギャップに萌えて、私はコロリとやられてしまったのであります。あらすじは語りません。ただ、人間は深い。そこを臆せずに書こうとする小説家を、私は信じています。



『はれどくvol.9』 目次
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乙女の恋は秘密の味。秘密の味は蜜の味。
【成田本店 みなと高台店(青森県)櫻井美怜】

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 子供の頃に読んだおまじないの本に、好きな人への手紙の最後に×××をつけるとその思いが成就する、というようなことが書いてあって十代の私はいそいそと手紙の末尾に×をしたためていた。素直だったなぁ、昔の私。その記憶があるせいか、大人になった今でも×という記号はバツでもエックスでもなく少女時代の小さな秘密の暗号になっている。

 そこへきて『あなたに贈る×』(近藤史恵)である。バツで伏せられている部分は「キス」と読ませるそうで物語はキスでのみ感染する致死力の高い病が蔓延する世界。かつては愛情表現だったキスは国際的に禁じられている。純潔を尊ぶ閉鎖的な学園で起こる一人の美少女の死。外も内側も閉じている閉塞された世界観は、まさに青春時代に学校や世間に感じていた不自由さそのもの。少年たちのまっさらな思いと少女たちの透き通った恋心。幼いゆえに儚く、そして儚いがゆえに途方もなく強いその秘密の恋の結末はどうぞ、本書で。

 この物語に隠された秘密を知らないまま読めたのは奇跡的な幸福であったと思わず本の神様に感謝したのが『陽だまりの彼女』(越谷オサム)。まだ映画も原作にも触れていないというそこのあなた! おめでとうございます! 白い気持ちでこの作品を読める喜びたるや神の祝福ですよ! 泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、みんなビーチボーイズを聞きたくなればいいっ。

 中脇初枝さんが描く恋の物語『みなそこ』は大人の恋の物語。大人の恋とは、禁断の恋。帰省して会うたびに皮を剥いでゆくように子供から男へと羽化してゆく故郷の親友の息子。いけません。その恋は許されません。恋は落ちるものですが、禁断の恋は堕ちるもの。足元にぱっくりと空いた穴が深ければ深いほど、落ちている間の快感が増すなんとも因果な仕様になっております。

 秘密、といえば小学生の私を本の虫にしたきっかけの安房直子さんの『うさぎ屋のひみつ』は外せません。アクセサリーひとつでとびきり美味しい料理を配達してくれるうさぎ屋。人生には知らない方が幸せなことってありますよね。奥さんが見たうさぎ屋の秘密とは一体なんだったのでしょうか。「ふんふんふん。ひみつ、ひみつ、うさぎ屋のひみつ」なのです。



【「『秘密』の秘密」の秘密】の秘密
【啓文社 ゆめタウン呉店(広島県)三島政幸】

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 どうも。年末に呉に転勤しました。今号より、呉からお送りいたします。

 さて、「秘密」というテーマで誰もが連想するのは、東野圭吾の代表作のひとつであり、ブレイク作でもある『秘密』(文春文庫)でしょう。タイトルそのまんまですしね。信じられない方も多かろうと思いますが、東野さんはかつて「売れない作家」だったんですよ。ブレイクのきっかけはこのちょっと前の『名探偵の掟』(講談社文庫)が「このミス」三位になったことですが、本格的にブレイクしたのは間違いなく『秘密』でして、週刊文春ベストミステリーで三位に入り、その年の日本推理作家協会賞を受賞、そして東野さんにとって初の直木賞候補にもなり、ついには広末涼子、小林薫主演で映画化されました。近年でも志田未来主演でドラマ化されるわ、ハリウッドでリメイクされるなど、大きな反響を巻き起こした作品であります。

 で、実はこの『秘密』の発表当時、一部のミステリマニアの間でちょっとした論争があったのですよ。今は無くなりましたが、創元推理倶楽部の東京分科会が運営していた「謎宮会」というホームページ(ネット黎明期に生まれた、最初期のミステリ系サイトのひとつ)で、この作品の結末に関して激論が戦わされました。結末なのでネタバレになりそうですが、やや曖昧に書くと、「結局のところ、最後に残ったのは、どっち?」というもの。いや、どちらかは伏線等で明かされているのですが、それは××が父(または夫)を想って、自分が××であるように「わざと演じていた」のではないか――という推理が「『秘密』の秘密」というタイトルの記事で寄せられ、それへの反論も【「『秘密』の秘密」の秘密】という記事で紹介されたりと、非常に面白い展開を見せました。

 小説上の結論めいたものはありますが、そう言われれば、はて真相はどうなんだろう、という気持ちになってきませんか? 同じ思いの人もおられるようで、結末に関しては「YAHOO! 知恵袋」でも様々な意見が交わされています。私は……いや、やっぱりネタバレになるから止めておきます。これこそ読んだ人がそれぞれ心に留めておくべき「秘密」なのかも知れませんね。



あれもこれも「秘密」の本 その一
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『うせもの宿』穂積 小学館フラワーコミックスαフラワーズ 9784091364166 ¥429+税

『式の前日』 『さよならソルシエ』(共に小学館フラワーコミックスαフラワーズ)の著者が描き出す、古き佇まいの旅館で繰り広げらる物語。不思議が満ち溢れた宿では、案内された客の探しものが必ず見つかると。それぞれが秘めたる失せものは何か。気になる話です。
【七五書店(愛知県)森晴子】


『ユニヴァーサル野球協会』ロバート・クーヴァー/越川芳明 訳
(白水Uブックス)9784560071892 ¥1,600+税


今から五十年近く前に、紙と鉛筆とサイコロで自分だけの妄想野球リーグを運営した男。自分だけの秘密の世界に他人を招いたばかりにヒドい目にあうとか五十年近く前に書かれたとは思えないリアリティ。野球に限らずすべてのオタク必読の書。
【紀伊國屋書店 京都営業部(京都府)川村学】


『ラブラブエイリアン』岡村星 日本文芸社ニチブンコミックス 9784537130997 ¥590+税

女性だけのアパートに墜落したのは地球を二十分もあれば滅ぼせる高度な科学文明を持つエイリアン。そんな事はお構いなしに進む赤裸々な女子の会話がメインの小ネタ満載漫画。エイリアン達の事はNASAには秘密でお願いします。
【サクラ書店 ラスカ平塚店(神奈川県)栁下博幸】


『水の生きもの』ランバロス・ジャー/市川恵里 訳 河出書房新社 9784309274034 ¥3,800+税

まさしく箱入り娘(息子)! インド・チェンナイの工房で作られたハンドメイド絵本です。手漉き紙・手刷りの初版三,〇〇〇部。自分だけの秘密の番号を持ってみませんか? 一生モノの一冊は大人のあなたへ。その美しさに目を見張ります。
【ころころむし】



私が秘密にしておきたい本
(きー@ツィッター @keyblackcoffee)

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〝 秘密 〟 とは、甘美なようで頑固、屈強ながら脆さを併せ持つテーマですね……おそらく、他の執筆陣は 〝 秘密 〟 をテーマにした内容の本を選び、皆様に紹介するのでは? と気付いた私は校了直前になって慌てました。うちの本棚に、そんな危うい書籍は無いよ!(割と小説の登場人物になりきるタイプの人間です。苦笑) そんな訳で……皆さまには、私が秘密にしておきたい本の紹介をしよう。本当は秘密にしておきたいけれど!! はい、前置きが長くなりました。普段ツイッターで短文連発しているので嬉しくなってしまいまして申し訳なし。私が紹介したい書籍は、こんな御時世だからこその一発です。『新月のソウルメイキング』仰々しい題名ですね。2003年に刊行され、題名にときめいて購入。ズボラな私が十年以上、習慣化している新月の日のアファメーション。アファメーションとは、短く前向きな言葉を繰り返し使うことで自己暗示をかけ、願望の実現に近付く手段の一つです。内容を簡単に説明しますと

 1、新月に突入する時間から、理想は8時間以内、難しい場合は48時間以内に……
 2、最低、二つから九つの願い事を白い紙に書いて……
 3、自分の署名、願い事を書いた日付を最後に記します。

これを私は毎月ぼちぼち書き残しているのですよ。月が通過する星座の道標を頼りに。書籍によれば、書いた紙は仕舞っても、捨ておいても良し。たまに読み返すのが楽しいので、私は気に入った箱に仕舞っております。ちなみに、春分に訪れる新月の時には特別メニューも。詳細は、是非とも本書を手に取っていただきたいので、秘密です(笑)。去年の新月には、こんな気持ちで願い事したんだな……。とか、書いたこと忘れてたけど、この願い事、いつの間にか叶ってるわ! ラッキー☆ とか、なかなか愉快な習慣になってます。もっぱら軽い気持ちで毎月の新月の日を楽しみにしながら前向きに……。自分の言葉、心と向き合うことって、普段しないですよね。仕事で疲れてたり、趣味に没頭していたり。この本を片手に今年は月に一日、五分程度でも自分と向き合う時間を作ってみませんか? 案外、自分でも気付かないような心の中にある秘密の扉の鍵が開くかもしれませんよ。それでは、今後も皆様の読書生活に良い風が吹き抜けますように。



全ては薔薇の下に
【紀伊國屋書店 名古屋空港店(愛知県)山崎蓮代】

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 いらっしゃいませ。いつものブレンドになさいますか。え、本にまつわる話で相談、と。さあ、私がお役に立てますかどうか。

 まずはこれですね。『みなそこ』中脇初枝。夏毎に帰る実家。いつもと変わらぬ人々や風景が何故か今年はざわつきを感じる。夫や娘を愛する気持ちとは別に抱いてしまったその感情とは……か。土地に留まる人や慣習だけではない目に見えぬチカラと、自然描写が美しい作品です。

 次は『つちくれさん』仁木英之。考古学好きな元刑事が出会った不可思議な人物「つちくれさん」と古墳で発見された古代の衣装を纏った死体の謎を解く物語なのですね。殺人事件もさることながら、このつちくれさん自身にも何やら謎が隠されているようです、気になるポイントでしょうか。助手の明子さんがいい味を出してます。考古学と刑事さん、どちらも生きていた人達について探求する点ではなるほどイコールかも。

 おや。飲み物が冷めてしまいました。おかわりはいかがです?

 こちらは、『北天の馬たち』貫井徳郎、探偵モノ。喫茶店「ペガサス」二階に事務所を構える皆藤と山南。臨時の助手として仕事を手伝う毅志が関わった二つの依頼・逮捕劇。毅志は不穏な予兆を感じる。美味しい珈琲を出す喫茶店と聞くとつい反応してしまいます、いけませんね。この探偵さんたち、もしかすると……。いえ、何でもありません。続けましょうか。

 最後は……『優しい死神の飼い方』知念実希人。主人公はゴールデンリトリバーのレオ(仮名)、看護師菜穂に拾われ向かった先の病院に入院している患者たちにある共通点を見つける。曰くつきな病院と患者たちの過去にレオは特殊なチカラで謎を解いていく。あぁ、この作品を読むとシュークリームが無性に食べたくなりますよ。

 さて。ここに集められた本にも共通点があることに気付きました。あなたはどんな 〝 秘密 〟 を打ち明けにいらしたのでしょう? いえ、その前に。話し続けて私も喉が渇きました。ご一緒にハーブティーはいかがです? とっておきの薔薇のお茶をご用意しましょうね、全ては薔薇の下に。



世界最大のバイオ企業の悪夢
【進駸堂 中久喜本店(栃木県)鈴木毅】

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 『モンサント 世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業』
マリー=モニク・ロバン/著 村澤真保呂・上尾真路/訳 戸田清/監修 作品社


 本書を紹介するにあたり、まず先にお断りをしなければならない。
 実はまだ読了していない。今回取り上げる本は別の本だった。しかし、先日刊行されたばかりの本書を読み始めたところ、あまりの衝撃に今回のテーマ「秘密」で紹介しなければならないと思ったのである。
 原稿締め切り当日まで原稿を書かなかった理由は出来るだけ読み進めようと思ったからなのだ。
いや、本当ですって。

 さて、本書は世界最大のバイオ化学企業『モンサント』の恐るべき実態を、多くの関係者へのインタビューと関係書類などから明らかにした大著である。

 まず『モンサント』が何をしたのかを簡単に説明すると、工業薬品のPCB(ポリ塩化ビフェニル)を製造していたアメリカ南部の街の工場で、汚染廃棄物を街中に廃棄、水路や川へも排水していた。周囲の住民はガンや流産なども含め健康被害が増大した。

 アメリカ軍がベトナム戦争の枯れ葉作戦で使用したダイオキシン(オレンジ剤)を開発し、多くのベトナム人や、兵士、またその子孫までもが先天性の奇形、障害に苦しむことになった。

「環境に優しい」と謳った除草剤が実は人体に有毒であったこと。そしてそれを隠蔽していたこと。

 牛成長ホルモンという遺伝子組み換え薬品を開発。乳牛に注射することで15%の牛乳の増産が可能になるが、乳房炎になる牛が多発。その牛に抗生物質が打たれることで、その牛から採られた牛乳には残留物として抗生物質が入り込み人体に悪影響が出る……。

 などなど、実はこれでも本書の半分なのだ。

 この悪夢のような行為について、真に恐ろしいのは、消費者へ人体に害があることを知らせず、害があることを知っていながら知らないとウソをつき、逆に「人体には影響が無い」と宣伝し、御用学者にでたらめなデータで安全性に信憑性を持たせる論文を書かせる。また国の規制機関に会社のOBを送り込み、規制の緩和や、自社に有利な規制を設けさせたりと国家機関との共謀とも取れる関係を築いていることである。
 先の牛成長ホルモンの例ではFDA(アメリカ食品医薬局)から、牛成長ホルモン使用によって生産された牛乳に対してラベル表示をする義務は無いとの指令が出る。理由は天然の牛乳と同等であるからという理由で。供給者は「牛成長ホルモン不使用」という表示をする権利も無い!。
 こうして牛成長ホルモン使用の牛乳と、不使用の天然牛乳が同一の牛乳として市場で流通されているのだ。消費者にはこの企業の製品を「買わない」という選択肢すら無いのである。そしてこの通達を書いたのは後日モンサント副社長となる人物であった。

「ビジネスでは、たとえ1ドルであっても損失することは許されない」

本書冒頭に引用されているモンサントの書類の一文がとても恐ろしい。科学者の良心と資本主義の良心は決して交わることがなく、現代社会は後者を理由に前者を蔑ろにしてきたことに気付き愕然とします。



⇒ 後編に続く
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by haredoku | 2015-04-01 17:19 | 『はれどく vol.9』