全国の書店員による、おすすめ本のフリーペーパー「晴読雨読」通称"はれどく"の公式ブログです。


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カテゴリ:『はれどく vol.10』( 2 )

『はれどく vol.10』 前編

表紙
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突発エッセイ 本屋の話
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『ドラゴンボール』の2巻が発売した頃、小学五年生が終わり僕は転校した。新しい土地で友だちのいない春休みを過ごしていた僕にとって、救いは歩いて5分の距離にあった新刊書店だった。
その店は10坪ほどのこじんまりした構えで、雑誌とコミック、少々の文庫と書籍がある、本当に小さな書店だった。
レジも半畳ほどのスペースで奥にトイレがあるだけで、いつも店長が独りでレジに座っていた。
当時はコミックにビニールパックなんてものはなく、なんでも読み放題だった。僕は毎日、日が暮れるまでその店でコミックを立ち読みしていた。

毎日一人で顔を出す寂しい子どもに同情したのか、店長はよく声をかけてくれて、ちょくちょく会話を交わすようになった。そしていつしかレジの中で座ってコミックを読ませてくれるようになった。レジの中に入ると本屋の店員になった気がしてとても嬉しかった。

昼時になると店長からお金を渡され、近所のショッピングセンターのフードコートへたこ焼きを買いに行かされた。
レジの中で二人してたこ焼きを食べながらいろいろな漫画のことを話した。

中学生になってもその書店には通い続けた。ちょっとエロに興味が出始める年頃だ。
僕はコミック棚の前でさりげなく手にとったつもりの叶精作の『ブラザーズ』を、これまたさりげなく会計を済ませた。
背徳と興奮に胸とかいろんなものを膨らませて家に帰り、紙袋からコミックを取り出すと、一緒に紙切れが入っていた。そこには手書きで「タケシのスケベ」と書いてあった。

今、この書店は無い。

店長はその後どうしているかも分からない。そう言えば名前も知らない。
僕を憶えているだろうか。
僕が書店で働いていることを知ったらどう思うだろう。
喜んでくれるだろうか。
あの時のように同情するのだろうか。
いずれにしろ『ブラザーズ』の一件だけは忘れていて欲しいと思う。

ふと自分の仕事を振り返ると、いつもあの時の書店を思い出す。

【進駸堂 中久喜本店(栃木県)鈴木毅】



『はれどく vol.10』 目次
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雨降りだって “ いい天気 ”
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 あっめあっめ ふっれふっれ かぁさんが~♪
などと鼻歌を口ずさみつつ思い出したのは、『おじさんのかさ』(佐野洋子 作・絵 講談社)。とっても立派な傘を持っているおじさんは、晴れていてもとにかくいつでも傘を持ち歩きます。少しの雨では傘は濡れちゃうと困るので差しませんし、大雨が降ってもやっぱり「傘がぬれるから」とさしません。ある雨の日に、小さな子どもから「傘に入れて」と頼まれて、はてさておじさんはどうしたでしょうか。傘は……やっぱり差さなきゃ、ですよねえ。だけど一旦「こうする!」と決めた大人を動かすのもたやすくありませんね。佐野さんの描く物語は子どもはもちろん大人をも思わず納得させててしまうほど、不思議にわかりやすくどの目線にも優しく腑に落ちて納得できるお話ばかりです。

 せっかくの遠足の日が雨降りだったら……。楽しみにしていたのに朝から雨……。やっぱり晴れた日に出かけられるほうがいい! と思っちゃいますよね。『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』(ひさかたチャイルド)でもおなじみの間瀬なおかたさんが、『あめのひのえんそく』(同)で雨の中のバス遠足をとても楽しくきれいに描いていらっしゃいます。結末もなかなか素敵です。わくわくする仕掛けもあります。こんな遠足だったら雨に日に行ってもいいなあ~と、思わず「遠足は晴れた日に」という意見を翻しちゃいましたよ(笑)。

 変化球と言ってしまうとそうなんですが、実は雨というテーマをいただいた時に真っ先に思い出したのが漫画家・雨隠ギド氏のお名前。ファンタジー『ファンタズム』も家族モノ『甘々と稲妻』もBL『青年発火点』 『火傷と爪痕』などなども、どのジャンルでも素敵な感性と懐かしさをも感じさせる筆致そして画力でありきたりの日常を、その中に潜む様々な想いを、聞き逃してしまいそうな人々の声を、読者へ向けて描き出していて優しい気持ちを思い起こされ、癒されます(BL作品も読んでいて癒されます!)。

【七五書店(愛知県)森晴子】



雨降りの日は本と飲み物でまったりと
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「雨」と聞いてすぐに連想したのが小泉今日子の『優しい雨』。元気いっぱいな曲調が多かった彼女のイメージがガラリと変わった切ない歌です。たまにカラオケでは唄います、って聞いてないわ! はいはい。

 狐の嫁入り、菜種梅雨など雨と付く言葉は数々あります。そんな雨にまつわる言葉を集めた1冊を。『雨のことば辞典』(講談社学術文庫)。季語や方言もあるので読み物としても面白いのでは。ことば辞典と言いながら雨の降る仕組みも載ってます。至れり尽くせり。

彼がやって来る時は必ず雨が降っていた。相手との距離をはかりつつも何処か人懐こい部分を残した彼の正体は「死神」。『死神の精度』(文春文庫) 伊坂幸太郎の作品ではベスト3に入ります(個人の感想です)。CDショップの試聴コーナーに佇む死神たち、想像すると不思議な感じ。各々が独立した物語なのに読み進めていくとある仕掛けに気付きます。最後の章には死神・千葉さえも驚くシーンが、おっとこれは読んでからのお楽しみ。映画では死神役を金城武が演じてましたがこのキャスティングは割と好みでしたね。

 ミステリには水モノが似合うと思う。名探偵もしくは警察官でもいいや、皆を集めて「さて」と謎解きの場面に雪やら雨、断崖絶壁荒波ドババーン! 二時間ドラマだけじゃないでしょ、このシュチュエーション。あれ、川とか沼は……それはさておき。物語の舞台はアイスランドの北の湿地にあるアパート、老人の死体が発見された事から始まる。「ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人」かと思われた事件は見当もつかない真実へとたどり着く。紆余曲折を経て真犯人の前に立つ捜査官、彼等の身体を包むのはそぼ降る雨。体温を奪うのは雨のせいだけではないのです、ぞわぞわ。『湿地』アーナルデュル・インドリダソン、五月に文庫化です。

 雨振りの日はうちで雨音に耳を傾けながらお好みの飲み物と本でまったりしたいなあ。【紀伊國屋書店 名古屋空港店(愛知県)山崎蓮代】



「雨」の本あれこれ PART1
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『アルパカかあさん』三谷知子 秋田書店少年チャンピオン・コミックス ・タップ!
マーくんはフツーの高校生、だけど母さんはアルパカ?! この母さん風呂上がりのドライヤーを手抜きし買物先のスーパーで漂う獸臭に消臭スプレーで対抗。かえって悲惨な事態を招きマーくんからとどめの一撃を喰らってしまうのです。そんな梅雨のエピソードは17話。
【黒木書店 白水店(福岡県)原田みわ】

『日本の分水嶺』堀公俊 ヤマケイ文庫
水に恵まれている島国、日本。その水の源である雨は、どこに降ったかで日本海側と太平洋側のどちらの海に流れ出でるかが決まっています。その境界線である分水嶺。あなたも知らずに通っているかもしれません。
【紀伊國屋書店 横浜みなとみらい店(神奈川県)安田有希】

『透明カメレオン』道尾秀介 KADOKAWA
雨の日から始まるこの物語は本当の家族と家族のような仲間たちが自分の深い傷を埋めるため、そして誰かを守るため、悲しい嘘をつく。それぞれの嘘が語られていくラスト、やめてやめて、と叫ぶ心に雨が降っていた。
【精文館書店 中島新町店(愛知県)久田かおり】

『空の絵本』長田弘 作/荒井良二 絵 講談社
もくもくとした雲と青空の表紙をめくると「あっ 雨」森の中は雨が強くなります。「だ」と「だん」で雨も雷も表現できるなんて! 雨上がりのこぼれるしずくや色が戻る森にうっとり。よし夜空も見てみよう!
【文教堂 北野店(北海道)若木ひとえ】



歴史を見届けた雨
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小説は想像力を刺激してくれる。初めて知る世界も知った気になれる。更には体験していれば更に深く小説の世界を理解できる。
そこで「雨」である。誰もが知る、体験している雨を小説で感じる。
冷たく纏わりつき、身体を凍えさせ、熱くもする雨。
読んで、かつその舞台に立って初めて伝わる寒さ、絶望感、恐怖。
より深く識る為に体感する! この事こそが人員不足の中連休を取り店から抜け出す格好の理由づけではないだろうか? そんな店長の選ぶ「雨を感じる歴史小説(幕末~明治編)ベスト3」を需要もないのに勝手に供給。
3位『彰義隊遺聞』森まゆみ(新潮文庫)(絶版)
わずか一日で終結した上野戦争は雨天の中行われた。ひそかに語り継がれた有名・無名の人物の証言を丹念に拾い集めた作品。小雨の降る中、上野の山を三時間彷徨い最大の激戦地「黒門口」を探すもブルーシートのおっちゃんに「去年取り壊したでw」。この作品と共に惜しいものを失くしたと言えよう。

2位『会津士魂⑫』早乙女貢(集英社文庫)
正編十三巻続編八巻で幕末から明治の会津藩の苦難の歴史を描いた名作。
雨で浮かぶのは「白虎隊」それも飯盛山ではなく戸の口原が雨を体感出来る!
(いつになったら、敵が攻めてくるのか)
凝っと雨に濡れて待っている時間がやけに長いものに感じられた
戸の口原は少し盛り上がった台地に慰霊塔や碑が立ち並ぶも遮蔽物の無いただの原っぱ。予備軍だったはずが急遽襲ってきた敵に対し応援として回せる戦力は白虎隊のみしかなかった悲劇。それまで自分たちを支えてくれていたモノが無くなり、雨に濡れ辺りは闇に包まれ腹は空く。本当に何もない場所ですが「うわ~~~~」ってなります。

1位『翔ぶが如く⑨』司馬遼太郎(文春文庫)
西南戦争と言えば田原坂は外せない。
俗謡にある♪雨は振る振る人馬は濡れる 越すに越されぬ田原坂……まぁ行ったのは最近ですけれどね。色々遠いんですもん。参考資料として『田原坂』海音寺潮五郎(文春文庫)『街道をゆく③』司馬遼太郎(朝日文庫)等で多角的に舞台を知ってはいたものの。実際に田原坂に立つリアルの圧倒感。百数十年前から見ていた樹木もあり薩摩藩防衛線から見下ろすと山の稜線を埋め尽くす官軍のダンブクロがありありと浮かびます。

『ウォーズ・オブ・ジャパン 日本のいくさと戦争』磯田道史 監修(偕成社)にも田原坂の戦いが描かれています。武士の時代の終わりを告げた戦と呼ばれるこの戦いで、流された血も近代日本と言う豪雨に流されてしまったのでしょう。

ちなみに現地の若者にはこれらの地全てが「心霊スポット」として知られているようですが、その話はまた別の機会に。

【サクラ書店 ラスカ平塚店(神奈川県)栁下博幸】



本棚に空いた闇へと店員が差し入れている罪と罰<上>
(木下龍也「つむじ風、ここにあります」より)

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去年僕は、まったくの初心者状態から一年間だけ短歌をやりました。これが予想以上に面白くて、結構ハマりました。たぶん、500首~700首ぐらいは作ったと思います。みなさんもさあ、Let‘s 短歌!

●【一人閉じ それを見てまた一人閉じ 最初に傘を閉じたのは誰(中山雪・女・25歳)】 穂村弘『短歌ください その二』(KADOKAWA):雑誌『ダ・ヴィンチ』の連載をまとめた作品。若い人の作品が目立つ。僕も二度採用されました。「雨の終わり」を、こんな風に謎めいた光景として見せてくれる。何でもない日常がくるりと反転する。【新しい文庫の角が折れました それだけで止まらないなみだは(シラソ・女・26歳)】コップへの最後の一滴が「角が折れ」たこと。泣くほどではないだろうということだからこそ、その大事さが際立つ。

●【救急車の形に濡れてない場所を雨は素早く塗り消してゆく】 木下龍也『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房)1988年生まれ。2011年から作歌開始。前出の『短歌ください』の常連。僕はこの方の歌がかなり好きです。映像喚起力がとても強い。誰もが情景をパッと浮かべられるだろう。映画のワンシーンであるかのよう。前後にどんなストーリーを読み取るかは、読み手の自由だ。【仰向けに寝て新刊を開いたら僕の額に栞が刺さる】なんということはない一瞬の描写から、グッと掴まれる共感力が生まれているのは何故だろう。

●【「雨だねぇ こんでんえいねんしざいほう何年だったか思い出せそう?」】 笹井宏之『ひとさらい』(書肆侃侃房)「彗星のように現代短歌を駆け抜けた」と称され、若くして急逝した現代歌人。仲の良い二人の会話、と読んでも微笑ましいけど、思い出せなかったら殺されてしまう、という脅迫の場面と読んでみる。「こんでん~」が平仮名であるところに、どことなく理屈の通じない狂気を感じるのだ。【「いま辞書とふかい関係にあるからしばらくそっとしておいて。母」】そんな風に言われると、「母」の言う「辞書」は、僕たちが知っているものとはまるで違った何かなのではないかと思える。「母」の存在そのものさえが揺らぐようだ。

●最後に、自作の短歌をば。
秋雨は一粒に1ビットずつラピュタの秘密を溶かしこんでる
お粗末様でした。

【黒夜行】



「雨」の本あれこれ PART2
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『九マイルは遠すぎる』ハリー・ケメルマン/永井淳 訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」
ふと浮かんだこの文章から推理を重ね、現実の事件まで解決するニッキイ・ウェルト教授。雨が降るとこれを連想するので、私の周りでも何か事件が起こってるかも?
【啓文社 ゆめタウン呉店 三島政幸】

『ふれ、ふれ、あめ!』カレン・ヘス 作 ジョン・J・ミュース 絵/さくまゆみこ 訳 岩崎書店
日照りが続く真夏の町。ようやく降ってきた雨を全身で喜ぶ人々の様子が美しい水彩画と詩的な文章で描かれた絵本です。憂鬱で鬱陶しいイメージの雨だけど、こんな風に楽しめたら雨も悪くないな。
【蔦屋書店 イオンモール幕張新都心(千葉県)後藤美由紀】

『バムとケロのにちようび』島田ゆか 文渓堂
雨の日って憂鬱だけど、おいしいおやつを用意して好きな本を好きなだけ読めたら最高だと思います。屋根裏部屋の本棚もステキ!ただ、うじゃうじゃいる虫とネズミはご勘弁・・・。あ、おいしい絵本も出てますよ!
【ユカゴ】

『晴れときどき涙雨』高田郁 幻冬舎文庫
「雨」がテーマとのことでこのタイトルを。トークショーなどでもお話は伺っておりますが、作品に対する取材や困難を乗り越えてこられた気持ちの強さと人柄を改めて感じられます。壁にぶち当たった時にはこの1冊。
【ブックスアルデ 近鉄店(三重県)吉川佐和子】



後編に続く⇒
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by haredoku | 2015-07-06 11:49 | 『はれどく vol.10』 | Comments(0)

『はれどく vol.10』 後編

⇒前編から続く



有楽町の食いしん坊・新井見枝香の
“ 読んでから食う? 食ってから読む? ”

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なんか美味しいもん食べたいね! なに食べたい? パンケーキかなぁ。パフェもいいね。
じゃあ食べログでしらべ……。

『ちょっと待ったーーー!!!』

女子高生が取り出したスマホをハンディモップでなぎ払い、有無を言わせずグルメガイドの棚に引っ張ってきた書店員は、胸に《くいしんぼう担当》というバッジを付けていた。
『あんたたち、せっかく本屋にいるんだから本で探しなさいよ!』
片方の女子高生は、書店員の親戚だった。
あ、オバサンじゃーん!
書店員はこの瞬間、姪に本を買わせることを固く決意した。
でもさー、タダで調べられるんだからぐるなびとかyahoo!グルメとかでよくない?
書店員も、飲み会の幹事になったり、出先でランチ難民になりそうな時はお世話になっていた。
しかし、違うのよ、少女たち。

『単行本の小説を選ぶように、本当に気に入ったグルメガイドを一冊選んでみなさい。大人のレディなら、バッグの底に必ず、忍ばせているものなのよ?』
フフフと微笑みハンディモップを羽根扇子のように振る書店員に惑わされたのか、女子高生二人は棚の前に立ち、おずおずと本に手を伸ばす。
『どこの誰が、どんな基準で選んだのか、どうして本を出すのかが明らかなものでないといけないわ。だから、著者名が表紙にしっかりと刻まれている本がいい。そこには、内容のすべてに私が責任を持つ、という作家の決意を感じるの』
自分の名前を冠した本に、偽りの写真を載せる人はいない。金を積まれて、美味しくない店を美味しいと言える人間は、そもそも作家になんてならない。もっと儲かる商売がある。
偏っていてもいい。蛇足が多くてもいい。グルメガイドも愛情だ。書く対象への圧倒的な愛情。
食べ歩くうちに、読者の愛情が染みこんで、本はくったりと珈琲色になる。紹介されたメニューの値段が変わり、店主が変わり、店がなくなって行く。
そうなればもう、グルメガイドとしては用をなさない。でも、いつまでも手元に置いておきたくなるのは、本が愛情のかたまりだからだ。

姪はトミヤマユキコさんの『パンケーキ・ノート』
姪の親友は斧屋さんの『東京パフェ学』を選んだ。
どちらも書店員のバイブルだった。

『え、私の定休日?』
書店員は、かわいい女の子二人に誘われて、もう有頂天だ。
月に一回くらいはご馳走してあげてもいいかな、なんてもう、思っている。

【三省堂書店 有楽町店(東京都)新井見枝香】



太陽はいつも雲の上に
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 しとしとと雨が降り続く日曜日(かな?)、退屈そうに窓から外を眺めていた女の子が、お母さんにおつかいを頼まれる。雨が降っているから嫌だと答えると(ワガママだなw)、お母さんは、傘をさして行けと言う。服が濡れるからと再度拒むと(ワガママだなw)、お母さんはレインコートを着て行けと言う。でも、でも、と尚も渋る女の子。さとうわきこさん『おつかい』は、大水になったら? 漂流中にお腹が空いたら? と、どんどんエスカレートする言い訳が子供に大ウケする筈。オチも笑えるし、解放感溢れる最終ページもかわいらしい。

 さて、お次は梅雨なのに「雨」がちっとも降らない話。重松清さん『カカシの夏休み』に登場するのは、同級生の葬式で二十二年ぶりに顔を合わせた四人の男女。山奥の中学を卒業してちりぢりになって、バブルに踊らされてバブルが弾けて、食いつなぐだけで精一杯の毎日に夢と気概を吸い取られて、いつの間にやらおっさん、おばさんになっていて……。
 だけど、久し振りの再会で気がついた。長い間忘れたふりをしてきたけれど、二十二年前捨てた筈の故郷の景色は、いつも心の奥の方で僕らを照らしてくれていた。その故郷が沈んでいる筈のダムが、カラ梅雨と猛暑の影響で干上がるかも知れない!? 「取水制限5%から10%に強化。ムダな抵抗はやめろ(笑)」なんて調子でメールをやり取りして、再び交流を始めた中年四人組は、故郷を見ることが出来るのか……。

 人生の艱苦、などという大袈裟な話ではなく、生活していくことの大変さをじんわりと描き、その大変なことを続けている人はみんなエライぞ、と励ましてくれるような、如何にも重松さんらしい中編。「幸せだけど、元気ではない人」と、「元気だけど、幸せではない人」に、強く強く薦めたい。

 三浦光世・綾子夫妻が、自分たちを励ましてくれた言葉の数々を紹介したエッセイ、『太陽はいつも雲の上に』(講談社文庫)は、残念ながら長らく版元品切れだけど、個人的なタイトルベストテンの、常に上位に位置する作品。そうだそうだそうなのだ! どんな大雨だろうが嵐だろうが、史上、やまなかった雨はないのだ! ってな訳で、人生土砂降りまっただ中の人に、野寺治孝さんの写真と石井ゆかりさんの詩のコラボ、『いつか、晴れる日』を贈りたい。いつかは晴れるゾとのエールを込めて。

【丸善 津田沼店(千葉県)沢田史郎】



「雨」の本あれこれ PART2
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『あめふりくまのこ』鶴見正夫 詩/高見八重子 絵 ひさかたチャイルド
テーマを聞いた時に直ぐに浮かんだのがこの絵本。昔、NHKの「みんなのうた」で放送された時よりクマの子が可愛くなってるような気がするのは私だけでしょうか? ページを捲りながらつい、口ずさんでしまうそんな絵本です。
【未来屋書店清水店(静岡県)前本浩美】

「羅生門」芥川龍之介 新潮文庫『羅生門・鼻』所収
「雨」と聞いて真っ先に頭に浮かんだのが、土砂降りの雨のなか一人の下人が羅生門の下で途方にくれているという『羅生門』の冒頭のシーン。今度どこにも出かけたくないほどの土砂降りの日がきたら芥川龍之介を読み返そう。
【治左衛門緑が丘店(大阪府)阪口功一】

『地下街の雨』宮部みゆき 集英社文庫
七編からなる短編集。表題作『地下街の雨』は、挙式二週間前に破談にされた麻子が主人公。地下街にいると雨が降っていることに気づかない。裏切られたような、でも仕方なかったような長雨の時間を癒してくれます。
【明林堂書店 高城店(大分県)多田由美子】

『371+1 松任谷由実歌詞集』松任谷由実歌詞集 集英社
「雨の街を」「12月の雨」「冷たい雨」「天気雨」「雨に消えたジョガー」「パジャマにレインコート」「霧雨で見えない」「Blue Rain Blue」「虹の下のどしゃ降りで」「雨に願いを」。タイトルだけでもこんなにありますが、雨の曲で最初に頭に浮かんだのは「青いエアメイル」でした。因みに「雨音はショパンの調べ」の日本語歌詞もユーミンです。
【明林堂書店 大分本店(大分県)前畑文隆】



雨は、必ず上がる。
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 雨の匂いが苦手だ。むせかえるようなむわっとした空気を吸い込むと、肺の中から無気力が浸食してくるような気がしてきて雨の日はどうにもこうにもやる気が出ない。側溝の水溜まりへ長靴を突っ込んで遊んでいたあの頃の私のウォータープルーフのメンタルは一体いつ消えてしまったのだろうか。

 読み終わった後、心なしか本がしっとりと湿っているような錯覚を覚えたのが原田マハさんの『異邦人』(PHP研究所)。原発事故後、お腹の子どもへの影響を懸念して京都へやってきた私設美術館の副館長菜穂と、無名の若き女性画家白根樹との運命の出会い。夫のたかむら画廊専務の一樹と、菜穂の母であり画廊の上得意客である克子とのねっとりとした大人の駆け引き。京都の美しい暮らしぶりとは裏腹に画壇で繰り広げられる男と女、金と才能をめぐるいざこざが終始作中に霧雨のように降り続く。梅雨の鬱陶しさでさえも作品の濃度を損ねることができない大人の物語だが、作中に登場する樹の描いた「青葉」という作品が梅雨の晴れ間のような一服の清涼感をもたらしてくれる。小説なだけに想像でしか補う事ができないのがなんとも悔しい。

 葬儀の日に降る雨を「涙雨」と呼ぶが、雨は外で降るものばかりではない。大切な人を亡くせば、私たちの心にも雨が降る。井上理津子さんの『葬送の仕事師たち』(新潮社)は、葬儀社や火葬場、エンバーマーといった聞きなれない遺体の復元作業まで、身近でありながら詳しく知りえなかった葬儀業界で働く人々の生の声を綴ったルポである。日々の仕事として「人の死」と向き合うというのは一体どういうことなのだろうか。誰しもがいつかは必ず迎えるその日について、お葬式を外側から見る事のできる貴重な機会を与えてくれる一冊。

 小野不由美さんの『営繕かるかや怪異譚』(角川書店)は何度閉めても開く襖や、屋根裏にいるなにか、など住居にまつわる怪異を修繕することによって治める営繕屋のお話だが、この中の「雨の鈴」がぞわりとさせる。雨が降る日にだけ現れる喪服の女。女は見かけるたびに角を曲がり少しずつ進んでいて、このままだと我が家へ向かってきてしまう。怖いだけではなく、人の心の機微をも汲み取る連作短編集。憂いはいつか晴れる。雨は、必ず上がる。

【成田本店 みなと高台店(青森県)櫻井美怜】



雨をみたかい
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雨の中、半身を川に沈めたアメリカ軍の兵士たち。川に浸さないように皆ライフルを肩に担ぎ一列になって川を渡っている。
雨に対してたちの悪いジョークに苦笑するような手前の兵士の表情。
フランスの報道カメラマン、アンリ・ユエが写したベトナム戦争の一枚の写真。
ベトナム戦争で犠牲になった報道カメラマンの遺作集である写真集『レクイエム』(集英社・絶版)では泥にまみれた兵士たちの姿が多く映し出されている。

インドシナ半島東岸にあるベトナムはモンスーン気候に属し、長い雨期がある。
アメリカにとってベトナム戦争は「泥沼」という言葉で言い表される。
それは政治的な意味合い以上に、戦場で戦った兵士たちにとっては文字通り雨と泥沼での戦争であった。
※ちなみに当時のヒット曲で反戦の歌と解釈されていたクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)の歌も『雨をみたかい』だったりもする。

〝 雨は戦争と同じなんだ、お前はそれと戦わなくてはならないんだ 〟

そんな言葉が作中に登場するのが、
ティム・オブライエンの『本当の戦争の話をしよう』(文春文庫)収録の一篇、「イン・ザ・フィールド」だ。
雨の中、泥の中を行軍する十八名のアメリカ軍の小隊。
降りしきる雨の中、ジャングルで泥水に沈んだ死んだ仲間を探す兵士たち。
雨と泥にまみれ、敵から攻撃される兵士たち。恋人の写真を失くし狼狽する兵士。死んだ兵士の両親へ書く手紙の文面を考え続ける隊長。くだらない話を喋り続ける兵士。
降りしきる雨と泥、そして汚物まみれの状況はベトナム戦争のアイコンとして強烈な印象を残す短篇である。

著者は実際にベトナム戦争に兵士として従軍しているが、本書はフィクションである。
どこまでが事実で、どこがフィクションなのか。このメタフィクション的構造が戦争というものの本質を浮かび上がらせる。訳者の村上春樹が言うところの 〝 比喩的な装置としての戦争 〟 が語られる必読の連作短篇集だ。

今年はベトナム戦争終戦から四十年にあたる。
半世紀前、雨で洗い流されるにはあまりに多くの血がベトナムで流されたのである。

【進駸堂 中久喜本店(栃木県)鈴木毅】



店長・成川真の “ 右往左往 ”
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 しとしとと降り続ける雨。
 出かけるのも億劫だし、気も滅入る。いやいや、そんな時こそ読書でしょ。
 『晴耕雨読』っていうじゃないですか。このフリーペーパーは晴れの日も読めっていうけれども、ともかく雨の日には読書に限る。
 雨の音にかき消されて、窓の外の音が小さくなって、そんな中で読む本って、なんか違う。科学的に解明すればまあ、光度がどうとか、集中力がどうとかの話かもしれないけれど、昔から、雨の日に本を読むって、雰囲気自体がすごく好き。
 だから雨の季節もそう悪くない。
 本を読むことに関しては。

 でも、売る方となるとまた違うんですよね。一般的に外出が減るから売上がどうこう、ってのはもちろんあるんですけど、一番アイタタタなのは あ ま も り 。
 かつて勤めていたとあるお店で雨漏りの被害にあいましてね。壁を伝ってきた雨水が、棚の後ろを伝い、商品の本が濡れてしまった。本にとって水はご法度中のご法度。ぶよぶよと膨れ上がって波打って、とてもじゃないけど売り物にならない。
 知り合いに聞いてみると、けっこうあるみたいですね、雨漏り。ある! ある! ある! ある! って一昔前にやっていた『クイズ100人に聞きました』ばりの声が……え? 知らない? ジェネギャ?

 とにもかくにも、本にとっての天敵は水ですから、あわてて商品を撤去して、棚を拭いて。雨がやんだら屋上に登って防水の処理なんかしてね。ああ、これ、テナントだとオーナーさんがやってくれたりします。
 台風の時とか、床一面が海のようになったことがあって、ぞうきんで拭いてバケツで絞っての繰り返し。とてもじゃないけど本を売れるような状況じゃないぞ、ってことも経験したりしました。
 滑りやすい床だったりすると、傘からしたった水滴のせいでより滑るから、お客さんが転ばないように、数分おきに店内をモップで行ったり来たりすることも。実は雨の日って、お客さんの数は少なくても、本屋さん的には大忙しだったりします。

 でも逆に、そんな時に来ていただいているお客さんを見ると、いつも以上にありがたく思ってしまったり。お買い上げの方が濡れないように、ビニールの袋に入れて、口を閉じて、反対向きにしてもう一度袋にいれたりして。
 せっかく雨の日に買いに来ていただいたわけですから、絶対に濡らすわけにはいかない! 雨水を完全ブロック! の気持ちで臨みます。
 そんなわけで、雨の日には、いつもと違う形でがんばる書店員の姿を眺めてみるのも、また本屋の楽しみの一つかもしれません。

 さてさて、最後に一つだけ豆知識を。

 せっかく買った本を濡らしちゃった! ぶくぶく膨れて波打って! 悲しいよぅ! と、そんな風になってしまったら、『冷凍庫』に一晩いれてみましょう。水分が凍結するとアレがアアなってコウなって、ともかく、本がしゃんとして復活するんです。騙されたと思って一度、お試しあれ。

【BOOKPORT(神奈川県)成川・裸・真】



掲載作品リスト(タイトル五十音順)
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by haredoku | 2015-07-06 11:48 | 『はれどく vol.10』 | Comments(0)