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カテゴリ:『はれどく 別冊』私の本屋大賞( 3 )

初めての別冊! 私の本屋大賞(PART2)

⇒PART1から続く



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「中高生にプレゼントなんだけれど、どの本がいいかしら?」
毎日は聞かれないが書店で働いていればド定番の質問。
「その子(男の子? 女の子?)は普段どんな本を読まれてますか?」
「……さぁ~? よくわからないわ」
毎回ではないが、これもまたよく聞く返答。ここからが問題。簡単に答えちゃいけない。まっさらな生地に落とされる最初の一滴によってその子の読書人生が明るくも暗くもなるクロスロード。
 ロバート・ジョンソンは悪魔と契約しテクニックを手に入れた、その子が得たいものは何なのか? 受験のテクニック?
考えても答えは見つからない。であるのなら不用意な契約はすべきではない。
「あなたでは話にならない! 本人を召喚したまえ!」
……失礼。

 最近は最初の一滴は辻村深月さんを薦めています。
 ピュアで無垢な時に染みわたって欲しい作家さんだからです。去年『島はぼくらと』(講談社)で惜しくも大賞を逃した事もあり、だからこそ今年で作家生活十周年を迎える辻村先生に大賞を獲っていただきたいと言う思いがありました。
 僕が辻村さんの作品を初めて読んだのもピュアで無垢な時でした。
 何となく「少年少女向け」みたいに思っていて、「オッサンが読むにはハードル高いっしょ?」と、かたくなに避けていた時に、とある「未会計商品を店外に持ち出された成年男性を呼びとめた」際におまわりさんから過剰防衛を疑われながらも肋骨を折り戦線離脱し自宅療養中に辻村作品に出会いました。ピュアでしょ?

 そんな辻村作品が十周年を祝して三作連続刊行。
 流石に本屋大賞1次投票に同じ作家の三作品を選ぶ事は出来ず泣く泣く選んだのは『盲目的な恋と友情』(新潮社)
 美しく才能もある主人公の「恋」のパートと、友人の側から見た「友情」パート。いつもより年齢設定が高めの今作。中高生の最初の一滴にはまだ早い作品かもしれませんが、自分史上最高に本を読んだ1年の中で確実に光り輝いていた作品『盲目的な恋と友情』略して「も・て・な・い」激情と冷徹、甘さと苦さ、一言で表すなら「オンナ怖い」そんな1冊を青春のクロスロードで煩悶する彼氏彼女に叩きつけたい。
                                   【サクラ書店 ラスカ平塚店(神奈川県)栁下博幸】



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 本屋大賞の投票に参加するために一年かけて新刊を追い続けているのだけど、自分が「これこそ大賞にふさわしい!」と思っていた本が大賞に選ばれるってのはめったにない。なぜだ! なぜこれが選ばれないんだ! 毎度味わうその悔しさをここにぶちまけてやるぜ!

 まずは大島真寿美『あなたの本当の人生は』(文藝春秋)。直木賞にノミネートされたんで既読の人は多いと思うが、これがまた著者と同じくらい不思議系で、あらすじの説明のしようがない困ったお話。説明しようがないのであらすじはざくっと省くがここにあるのは「自分の人生を物語る」ということとその意味。一度とらわれるとそこから逃れることはできない「物語る」こと。そしてその先にあるきちんと死ぬということ。大島さんの小説はいつも遠くに「死」の匂いがするのだけど、自分の、そして誰かの死をまっすぐに受け入れるために今を精一杯生きること、その意味を教えてくれてる、そんな一冊。

 次は奥田英朗『ナオミとカナコ』(幻冬舎)。これはほんっとに面白かった。物語が走り始めたら立ち止まることはできなくて、先へ先へと息を切らして必死で付いて行くしかなくなる。
二人の女の犯罪小説なのだけど、普通なら同情しこそすれ、絶対に責めるなんてあり得ない「被害者」の家族にさえまったく共感できない私って……と自分の正義を疑ってしまう。ドキドキハラハラ胃をきゅんきゅんと縮めながら共犯として走り続ける読後の疲労感をぜひとも!

 そして三冊目は実際にノミネートされていたので省くとして、一年間読んだ新刊から候補に挙げていた十冊のうちの一冊を紹介しよう。
 瀧羽麻子『ぱりぱり』(実業之日本社)。既刊アンソロジー『あのころの、』(実業之日本社)収録作を第一話に、詩人すみれとかかわったひとびとのお話。実は、何度読んでも同じところで泣いてしまう。すみれの、あの一言で、妹はずっとずっとすみれのことを大切に思い続けることができるだろうね、あぁよかったなぁ、としみじみする。「ヒトと同じことはできないけど、ヒトとは違うことができる」そんな誰かをそっと見守り愛し続ける。悲しい事件が次々起こるこの世界も、そんな思いに満ちていたら、私たちはまだまだ大丈夫だ、そんな優しい光が見える一冊です。ギスギスキリキリ疲弊した心に効きます。
                                   【精文館書店 中島新町店(愛知県)久田かおり】



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「本屋大賞」書店員になる前は、ただ面白い企画があるんだなぁくらいにしか考えていなかった。初期の頃は一般の読者に向けてどの作品が一位なのかを当てるクイズもあった(しかも当ててた)。あれは抽選に当たったら何がもらえたのだろう? あの頃は自分が参加する側に立つとは思いもしなかった。一次投票では三作を選ぶ。これが身もだえするほど悩むのだ。私は毎年自分のベスト3を決めている。どの時点かはその年によるのだが、割にスパッと決まる。そのうちの一作を「一番売りたい本」として頑張って売る努力をしている。

それが昨年は困ったことにベスト4と、一つ多い。泣く泣くあきらめたのは佐藤正午『鳩の撃退法』(小学館)だった。 投票フォームに向かってため息をつきながら数日かけてやっと投票。そしてノミネート作が発表された時のあのなんとも言えない驚き! 自分が投票した分では月村了衛『土漠の花』(幻冬舎)しか入ってない!! 投票したあとで出会い一目ぼれした絲山秋子『離陸』(文藝春秋)も入ってなかった。それでも一つでもあったのならいいでしょと思っておかないといけませんね。

《一次投票三作》
『土漠の花』は読み始めたら止まらない。男女問わず薦めたい! 第一空挺団の面々の苦悩や闘う姿に熱くこみ上げるものがある。数々の戦闘シーンや村の子どもとのふれあいが忘れられない。そしてぜひ『機龍警察』シリーズ(早川書房)も読んでもらいたいのです。

 中脇初枝『みなそこ』(新潮社)。誰もかれもがしてきた何万年もくりかえしてきた日々の営み。誰かに心を奪われ恋におちることさえ自然の中のひとつの行為に溶け込んでゆく。その一つ一つはすべて同じではない。形容しがたいショックを受けた一冊です。

 大島真寿美『あなたの本当の人生は』(文藝春秋)。これすごい! と興奮を隠すことができなかった。書くことの魔力。そしてコロッケの魔法。一心不乱に読みました。

《発掘本》
 まさきとしか『熊金家のひとり娘』(講談社 二〇一一年発売)。お願いですから文庫にしてください。『完璧な母親』(幻冬舎)と前後して読んでもらいたい。
《翻訳部門》
 この部門、今年も投票できるほどは読んでないのです。    【文教堂 北野店(北海道)若木ひとえ】



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 長年(約25年)書店員をやっていると思いがけない仕事も舞い込んでくる。昨年の最大のサプライズは年末に大女優・黒木瞳氏のラジオ番組に出演したことだ。あっという間の小一時間、読書好きの彼女と本にまつわるあれこれの話をした。時期的にも本屋大賞の話題にもなり「二年連続で上下巻が大賞でしたから今年は『サラバ』や『鹿の王』が有力ですよ」と割といい線の話ができた。最近は特に女性の活躍が目立ちます、ということで今年おススメの十冊(すべて女性作家)をスタジオに持ち込んで駆け足で解説。収録後に黒木氏は財布を取り出し「最近、忙し過ぎて読めていなかったのよ」と言いながら、その中から三冊を選んで自腹で買って下さった。それが以下の作品だ。

① 原田マハ『太陽の棘』(文藝春秋)
② 藤岡陽子『波風』(光文社)
③ 柚木麻子『その手をにぎりたい』(小学館)

自分で紹介しておいて何だが、なかなか絶妙なラインナップ。
①は僕個人的にもイチオシ。自分的本屋大賞作品だ。著者得意の絵画ネタで実話に基づいているからそのリアリティが凄まじい。対極にある明と暗がなんとも残酷なまでに鮮やかなことか。ラストの光の明滅に全身が痺れた。

②もまた完成度の高い作品。水彩画のような淡さと油絵のような濃さを併せ持つ筆遣いに息をのんだ。タイトルも装丁ももちろんいい。藤岡陽子はもっと売れるべき作家の筆頭だろう。

③も大好きな作品。まずはバブル絶頂からその後の情景と、主人公の揺れ動く心境変化の描写が見事。寿司屋のカウンター越しという距離感もなんともいえずその展開に涙した。人肌のぬくもりが恋しくなる山葵が効いた好著。

 というわけで①②③いずれの作品も甲乙つけがたい逸品だ。今後これらの作品が映像化された折りにもし黒木瞳氏が出演していたとしたら、望外の喜びだ。この世の中、なんの縁がどう転ぶかわからない。だからこそ面白い。乞う、ご期待を。

 最後は発掘部門だ。今年はこれしかない。三田誠広『鹿の王』(河出書房新社)。サブタイトルに「菩薩本生譚」とあるようにお釈迦様の物語。これはホットケない。ただちに増刷してもらいたい。
                                      【三省堂書店 神保町本店(東京都)内田剛】



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 いつもの『はれどく』では、毎回テーマに沿って本を紹介しておりましたが、このたび私の本屋大賞ということで、本屋大賞に投票するにあたって自宅の窓が打ち震えるほどに慟哭しつつ惜しくも選から外してしまった本を紹介してもいいという、なんとも素晴らしい企画にワタクシのパトスは爆発寸前でございます。

 本屋大賞といってもワタクシ、翻訳部門でのみ参加をしておりまして、今回投票した三作品もそれぞれ大変面白い小説でございました。しかし「好きな食べ物はなあに?」と聞かれれば、本当は筋子なんだけど、「ハンバーグ」と答えていた空気の読める子どもでありましたワタクシにとりまして、今回、遂に「筋子」と自信をもって発言できる場を得たことは望外の喜びでございます。

 さて、そんな筋子が好きなのに空気を読んで「ハンバーグ」と言ってしまった幼少期を思い起させる小説が吉村萬壱の『ボラード病』(文藝春秋)でございます。B県海塚市は結び合いの精神で住民みな助け合い、協力し、素晴らしい海塚の歌を歌います。そんな街で暮らす小学生の恭子ちゃんは友だちの悩みや、お母さん、お隣のおばさんなど大人たちを少し怖がりながら観察しています。読者は恭子ちゃんの日記のような文章を読み進めていくうちに、違和感を徐々に感じてきます。そしてそれが実はとても身近なことだと気付いたところで、この小説は盛大に弾け飛ぶのです。現在、鬱屈した社会にお気づきの方にとってこの小説は、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』と比肩する現代の日本製ディストピア小説と言っても過言ではない傑作でございます。

 次に紹介いたしますのはセス・フリード『大いなる不満』(新潮社)という短篇集でございます。爆撃を受けたり、マウンテンゴリラの襲撃があったりと毎年死傷者が出るピクニックイベントなのに、なぜか多くの人々が参加してしまう「フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺」。新大陸に侵略したスペイン人が面倒臭そうに新大陸の人々を殺していく「征服者(コンキスタドール)の惨めさ」。残酷で凄惨、グロテスクな中に散りばめられるユーモアは、『寄生獣』『ヒストリエ』の岩明均のマンガのような雰囲気です。この癖のある小説の読後感は自分だけのお気に入りになること請け合いの短篇集でございます。

 またロラン・ジュヌフォール『オマル 導きの惑星』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)は、地球の5,000倍の大きさという巨大惑星オマルを舞台に、異なる種族の男女六人が、それぞれに受けとった謎の手紙を手に一つの巨大な飛行船に集まり幕を開ける壮大な物語でございます。まるで中学生が考えた「里見八犬伝feat.俺」的なSFですが、巨大な惑星、巨大な飛行船、何世紀にもわたる種族間の争いとその起源。そんなビッグスケールのお話が、飛行船の中で将棋(のようなもの)をみんなでワヤワヤとやるという、まるで東京ドームでポートボールをやるような、およそ壮大という言葉とは程遠いミニマムなお話が展開されます。しかしそこからこの巨大な世界のキャパシティを一気に埋め尽くす気宇壮大な核心へと突入していく様はまさにSF叙事詩のコピーに偽り無しの一言。この異星SFという定番ジャンルにおいて重要なのは異星という架空世界の構築と設定でございます。著者、ロラン・ジュヌフォールはオマル・シリーズ公式サイト(http://www.omale.fr/)にてオマル世界の年表、地図、用語解説など膨大な世界設定をまるで中学生の妄想世界のごとく綿密に構築しています。フランスSF新時代の幕開けにふさわしいSFシリーズでございます。

 最後に、キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』(東京創元社)でございます。
なんといってもタイトルがカッチョイイです。こちらも短篇集です。サーカスの25匹のお猿さんが消えたり、現れたり、出かけたり、帰ってきたりする「25モンキーズ、そして時の裂け目」、携帯にかかってきた謎の電話に未来との関わりを匂わせる「水の名前」など、不思議な話が目白押しの本書ですが、その中でも異彩を放つのが「スパー」でございます。宇宙船の衝突事故で、異星人の救命艇に助けられた女性が延々と異星人と性交するというおはなし。有名な映画『未知との遭遇』で描かれる異星人との接触は第三種接近遭遇に分類されていますが、これはもう分類すべき段階をとうに過ぎているようなお近づきの状況です。言葉も、感情交感もできない異星人同士、唯一できるのが性交という、なんとも頭の中がとろけそうなお話です。

 以上、四冊を駆け足でご紹介させていただきました。
 イマジネーション、現実の写し鏡、そして筋子。読者の想像をかき混ぜるSFというジャンルの快感を是非ともご一読して頂きたく思う次第でございます。             【進駸堂 中久喜本店(栃木県)鈴木毅】



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 投票した作品は上位には入りませんでしたが、どれも自信を持ってお勧めできるお話です。

 藤野恵美『初恋料理教室』(ポプラ社)。男子限定の料理教室を舞台に繰り広げられる、何の変哲もなくドラマティックでもない、何気なく起きる日々の人間模様の中には、実は大小問わず様々な気づきがあることを、味わい深い言葉をわかりやすい文章で表わしてくださっているので、ほのぼのとしながらも心に沁み入り、自分や周りを見つめなおして穏やかで優しい気持ちになることができる。そんなあったかい魔法をかけてもらえます。

 大島真寿美『あなたの本当の人生は』(文藝春秋)。自分の今の生き方ははたして正解なのか、違う「答え」があったんじゃないだろうかと考えたことはありませんか? 作家が描く「作家」という仕事と、穏やかな川の流れのように見える大きなうねりに、苦悩しながらもその身をゆだねて生きていく登場人物各々の様から、「本当の人生は?」という想いを自分にも重ねつつ読み解いていく醍醐味が味わえます。な~んて大仰に書いてしまいましたが、読んでいると無性に食べたくなるほどのコロッケの香りと味に包まれて不思議と心が温まるお話で、勤務店の総力を挙げて推していたりします。

 宮下奈都『たった、それだけ』(双葉社)。人というものは本当に多面的で、きっと周りの人が『この人はこういう人』と思い描く人物像の裏側も実はまったく測り知れなくて、一方から見ると「黒」であっても、角度を変えて眺めてみると全然違う真実が浮かび上がってきたりします。
 そしてとても密やかに想いを秘めてはいても、心の奥底で強く願っていることは、必ず叶えることができる。
「逃げるが勝ち」という言葉があるように、逃げることも時としては選択肢にあっていいんじゃないか。
 宮下さんの描く物語は、誰もが抱えるヒトとしての弱さ・狡さをさりげなく表されていて、話の途中に不穏さが感じられたとしても、最終的に希望の光を見出すことができるので、読み手の心の支え、力となっていけるのではないかと思います。

 投票の関係で順位をつけなければならないので、甲乙なんて付けがたい作品を悩みつつふるいにかけましたが、この物語は私の中でダントツ1位でした。                  【七五書店(愛知県)森晴子】



⇒PART3に続く
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by haredoku | 2015-04-07 19:41 | 『はれどく 別冊』私の本屋大賞 | Comments(0)

初めての別冊! 私の本屋大賞(PART3)

⇒PART2から続く



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 本屋大賞に参加するようになってノミネート発表後のあたふた回避の為にも(そんな大袈裟なもんじゃない)、気になる本はチェックするようになったのだけど。まー、なんだ。中々に自分が選んだ本がノミネートに入らぬのにも若干慣れた感はある。慣れたかないやいっっ!

 もう聞き飽きたでしょうが、コロッケです。大島真寿美『あなたの本当の人生は』(文藝春秋)。ぶっちゃけて言えば新人作家は次の物語を編むことなくひたすらコロッケを揚げ、大作家はとっくに自ら作品を産む作業から遠のき、何故か義務的に続けていた秘書が「書く」ことの虜になっていた、どんな内容だ、そりゃ。でも持っていかれたのだ、タマシイが震えてしまったのだ。大島作品は現実と幽玄の狭間に気が付けば置かれている時がある。あまりにも移動が自然で何処にいるのか分からなくなる。でも不安にはならない。光が見えるからだ。 直木賞ノミネートで大島真寿美の名前を知った人が来年以降注目してくれますよーに。

 ゲキ押ししてたもう1冊は小手鞠るい『アップルソング』(ポプラ社)。1945年6月、岡山での空襲で瓦礫の中から拾われた命。命と自然を重んじる茉莉江が生涯の仕事に選んだのは報道カメラマンだった。茉莉江の生い立ちを語る「私」こと美和子。彼女たちが時間を共有したのはほんの一瞬。けれどその糸は強く強く結びついていた。戦場に暮らす人々を写した岩井蓮慈の写真、それは切り取られた刹那の時間。まず驚くのはこれが架空の物語である点。 思わずネット検索して茉莉江を探してしまった。茉莉江はいませんでしたが、日本女性初の報道カメラマンに笹本恒子さんという方がいらっしゃる。この方の著書も併せて読むのはいかがでしょう。

 これ、ホントに入れたかったんだー。でも、小説を対象としている本屋大賞に、ノンフィクションは投票できない(泣)。佐々涼子『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』(早川書房)。紙のぬめり、この本にはこの紙質とインクなどなど、こだわりの職人芸を見せてくれる方々が主人公。日本製紙石巻工場は東日本大震災により被災、当日出勤していた従業員を1人も欠くことなく生き残るもその被害の甚大さと業務復旧へのカウントダウンの行程が、すざましい。ティッシュ箱ごと丸抱えで読むべし&デートの前には読まないように。
                                 【紀伊國屋書店 名古屋空港店(愛知県)山崎蓮代】



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 私は本屋大賞に投票する際の基準を決めている。一次投票では「書店員に読んで欲しい作品」、二次投票は「広く一般に読んで欲しい作品」である。ベストテンに入ってノミネートに残れば、少なくとも投票する書店員は必ず読まなければならないから、そこで「こんなに面白い小説があったのか!」と書店員にこそ発見してもらいたい、と思っている。まあノミネートに残るのは毎年一作品くらいだけれども。そんな私が一次投票に投じた作品は、

1.米澤穂信『満願』(新潮社)
2.歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』(文藝春秋)
3.連城三紀彦『小さな異邦人』(文藝春秋)

だった。結果的には今年も『満願』一作のみノミネートに残った。『満願』は昨年のミステリ界を席巻した作品でもあり、皆さんも読んだだろうからここであまり多くは語らない。昨年、私が一年中推し続けてきた小説だ。
なので、ここでは残り二作品について詳しく紹介しよう。

『ずっとあなたが好きでした』は去年10月末に発売され、タイミングが悪すぎたためにランキング系に全く引っ掛からなかった不運な作品だ(ミステリ界では10月末がランキング投票の年度末なのだ)。しかしこれこそ、ミステリマニアの私が激推しする超絶傑作なのだ! 様々な世代やシチュエーションの恋愛模様を描いた短編集だが、最後にトンでもないことが待ち受けている。読みながら腰を抜かすことを保証しよう。『葉桜の季節に君を想うということ』(文春文庫)ばかりが歌野晶午ではないのだよ。不可能としか思えないようなことを可能にするイリュージョンを見せてくれるのもまた歌野さんの魅力なのだ。

 本屋大賞に故人の小説を投票するのは趣旨に反するかも知れないのだが(仮に大賞になっても発表式に来れないからね)、それでもどうしても多くの書店員に読んで欲しい、という気持ちが勝ったのが『小さな異邦人』だった。連城さんの最晩年の作品集でありながら、まだ前衛的なミステリを発表し続けていたことは奇跡ですらある。とりわけ表題作「小さな異邦人」はオールタイムベスト級の誘拐ミステリ。未読の皆さんも騙されたと思って、表題作だけでもいいから読んでみて欲しいなあ。そしてこれを機に、連城三紀彦の傑作群に触れていただけたら嬉しい。                     【啓文社 ゆめタウン呉店(広島県)三島政幸】



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『はれどく』本誌で分不相応にも連載をやらせていただいております。今回は別冊ということで、本の紹介をさせていただく機会がやってまいりました! テンションが心配ですが、連載とは違った大人な感じで行こうかと思います。
 本屋大賞第一次投票ではいつも必ず「この作品大好きなんだけど、きっとノミネートに届かないだろうから、このオレが投票するッッッ!」という作品を一つ作っておりまして、今回その役目に当たった本が山田宗樹『ギフテッド』(幻冬舎)であります。

 実は山田宗樹さんは前年『百年法』(角川文庫)でノミネートされており、『ギフテッド』ももしかして……という思いがない訳ではなかったのですが、社会派という硬質な側面を持っていた『百年法』に比べると内容が少しばかりエンタメに寄っていたので、今までの本屋大賞の傾向からするとノミネートには届かないかな、と分析した結果、見事にノミネートされませんでした(残念)。

 内容は、「何の機能を持つかわからない未知の臓器を持った人類」が生まれ出した現代社会で、ギフテッドと名付けられた彼らが、研究のため政府に保護されて暮らしているのですが、特段、普通の人間と変わりない。ところが、あるきっかけで彼らに特殊な能力が芽生えはじめ……。
 という超サイキックSF小説なわけで、厨二病を発病して以来、未だ完治はおろか、日々症状を進行させているボクには心が躍りまくってラッスンゴレライを始めてしまうくらいの設定、展開! 『バビル二世』や『風魔の小次郎』でサイキックバトルに目覚め、『AKIRA』で衝撃を受け、『ガンダム』でニュータイプごっこをしたボクにはまさにうってつけ。「オ、オレごとこの本をその剣で貫け……! オレの中の超能力好きな悪魔が覚醒する前に……ッ!」っていうくらい好きです。

【人類vs新人類】という構図、それをラノベではなく、きちんとしたリアリティある現代社会を背景として描き切ったこの作品、いかがですか? え、読まない? いや、ちょと待ってちょと待ってお兄さん、読まないってなんですの?                                 【ブックポート203(神奈川県)成川真】



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 2014年1位はここ5年の中でもだんとつ1位!
 今まで一度も、投票した作品が大賞どころかノミネートすらされたことがなく、いつかわたしの好きな本たちもあの大舞台に……と夢見ている酒井と申します。今回、己の自己満足な好みを存分にさらしてよいとのことなので、嬉々として参加を。
2014年は個人的にはなかなか、好きな本に巡り会えなかったのですが、この三作は絶対の自信を持ってお勧めできる三作です。

3位 周防柳『八月の青い蝶』(集英社)
 戦争、広島、原爆、そのころ少年だった父親の初恋の記憶。死の間際、仏壇から翅の欠けた青い蝶の標本が出てきたところから、回想シーンがはじまります。戦争中といえど、町の人たちは今と変わらず恋もしたし、学校をさぼったり、親に怒られたりしていました。そんな少年時代の淡くも切ない初恋をものすごく丁寧にみずみずしく切り取った一作。処女作とは思えない文章力であっと言う間に引き込まれました。

2位 松家仁之『優雅なのかどうか、わからない』(マガジンハウス)
 作家デビューから三作目、デビュー作からずっと好きですが、今作も素晴らしい。40代で離婚した主人公が古い家を借り、手作りで住むところを一つ一つ作りながら、本当に好きな人との生活を考えてゆく話。
 主人公も脇役もキャラクターがみんな愛らしく、しっとりと美しい文体なのになぜか笑ってしまうところもあり。もうこの本自体がラブレターのよう。もちろん一番大切な人への。

 そして第1位! 梨木香歩『海うそ』(岩波書店)
 傑作。ただそのひとことだけであとの言葉は全部のみ込んでしまいたくなるほどの傑作。本当にこの本だけはほとんど誰にも感想を言えなかったし、勧めることもできませんでした。それだけ自分の中に深く入ってきて染み込んで、時が経てば経つほどその色は濃くなってくるというすごい本。変わりゆくものを止めることはできない。そのことをゆっくりと、でも受け止められるようにいつかなりたいと、そう思った本です。おそらく一生大切にする本に出会えました。

 あーーまったく字数が足りない!
 海外文学のほうもですねぇ、傑作がたくさんあったのに……。それはまたの機会にでも。
                                       【丸善 津田沼店(千葉県)酒井七海】



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「本屋大賞」という名前もまだなかった頃から、もう十数年の時が経ちました。賞を創ること自体も夢物語のような話だったというのに、いつしかすっかり大きな賞になり、「この人にあげたい」と思っていた作家さんにも授賞していただき……と夢は次々に叶ってきました。

 が、実行委員でありながら一回もやったことがない大きな体験が二つ。一つはアンベールの瞬間を見ること。(受付担当としてずっと外に居るので、リハーサルとテレビ以外で見たことないんです)。二つ目は投票をすること。この度、胸を張ってエア投票を出来る場をいただいたので、今年の一次投票をするつもりになってやってみたいと思います。
 脳内会議を開催し、まずは三冊を選び、そこから順位付け。悩みに悩みました。コメント書きながらも順位を何度か入れ替えたくらいです。そしていざ投票!

●3位 藤岡陽子『手のひらの音符』(新潮社)
 一年に何度か「言葉の力」というものを信じたくなる作家、作品に出会います。この作品の登場人物たちを支えたのは、弱い立場に居ながらも優しさを忘れない人々の強い言葉でした。読み終わった本は付箋だらけです。

●2位 王城友紀『天盆』(中央公論新社)
 作者は登場人物に加えて蓋という国と「天盆」という新しいゲームを産みだしています。天盆が強いことが権力に繋がる世の中で、ただ楽しいからという理由で、キラキラした目で「天盆」に向かい合う主人公、凡天が魅力的でした。もっと多くの人に読んで欲しい。

●1位 上橋菜穂子『鹿の王』(KADOKAWA)
 上橋さんの書く世界。そこにはその土地を生きてきた人々、彼らの耕した土壌、食物、動物、信じた宗教、病のすべてが描かれます。読み終わったあとも、あの世界がどこかで続いているのを感じます。上橋さんと同時代に産まれ新作を読んでいられる事がなによりの幸せです

 初投票は楽しかったけど、選択は辛かった! 皆さん大変な思いをしているのね。という事を共有しつつ、これからも裏方頑張ります!    【日本出版販売株式会社 マーケティング本部(東京都)古幡瑞穂】



掲載作品リスト
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by haredoku | 2015-04-07 19:41 | 『はれどく 別冊』私の本屋大賞 | Comments(0)

初めての別冊! 私の本屋大賞(PART1)

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                          表紙イラスト【ブックポート203鶴見店(神奈川県)横山聖実】



スペシャル対談 本屋大賞はこうして出来た!

 本の雑誌社の炎の営業マン、杉江由次。日本出版販売株式会社、通称・ニッパンのマーケティング本部、古幡瑞穂。実はこの二人、『本屋大賞』の誕生に深く関わり……と言う以上に、彼らがいなければ『本屋大賞』は生まれなかったと言っても過言ではない、まさに生みの親である。しかも、自身は本屋ではないから投票は出来ない……にも関わらず、十数年間『本屋大賞』を陰でを支え続けてきた育ての親でもある。
 そんな二人が、『晴読雨読』の為に語り下ろした、『本屋大賞』前夜の物語。

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杉江 今日は本屋大賞の裏方二人で本屋大賞が出来るまでの話をしようと。
古幡 ふざけたことを言わないようにしないとね(笑)。
杉江 なにせ飲み会の戯れ言が発端ですから。
古幡 まさかこんな大騒ぎになるなんて考えもしなかった。今や受賞作はミリオンセラーで映像化も当た
   り前……。
杉江 そもそも僕と古幡さんが出会ったのも飲み会ですよね?
古幡 たぶん飯田橋にあった「深夜プラス1」の店長・浅沼さんを囲む飲み会だったと思う。なんかあ
   の頃って、14年くらい前なんだけど、出版業界には不思議な飲み会がいくつもあったんですよね。
杉江 ありましたよね。そこで名刺交換をして、いろんな人と知り合って行く感じで。
古幡 まだTwitterやFacebookもなかったから、そうやって出会っていくしかなかったんです。
杉江 古幡さんは当時日販から楽天に出向していたんですよね?
古幡 楽天ブックスで働いていました。
杉江 ホームページで毎日読書日記を更新していたのが印象に残ってます。こんなに本が好きな人がいる
   んだって。
古幡 毎日読んでは書いていたんですよねえ。

杉江 あの頃は書店員さんたちがお店の枠を越えて横に繋がっていこうとし始めていた時期でしたね。
古幡 色んな所で飲み会をやっていたら今度この人を紹介するよっていうのが増えてきて、ある日、それ
   なら全部一緒にやっちゃえばいいんじゃないかって思ったんです。
杉江 それが本屋大賞の始まりの飲み会の一つですね。とにかくいろんな書店員さんがいた。
古幡 『帰りたくない!』の茶木則雄さんがいたり、元往来堂で『本屋はサイコー!』の安藤哲也さんが
   いたり。
杉江 実は僕、その飲み会に声をかけて貰っていた訳じゃないんですよ。
古幡 そうなの?
杉江 たまたまその日、営業にいった書店さんに教えられて急遽顔を出したという。
古幡 運命ですね(笑)。
杉江 そう、あそこで飲みに行ってなかったら本屋大賞は無かったかもしれない(笑)。
古幡 その飲み会がみんな初めて会うとは思えないほど盛り上がって、みんな本がどうやったら売れるか
   とかどの作品がいいか大騒ぎしていた。ここにいる人たちが本気になったらどれくらい売れるんだ
   ろうって話になって、1,000部くらいは売れるんじゃないかって。
杉江 その程度のレベルの話だったんですよね。

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古幡 本当にね。それでみんなのメールアドレスを集めて、メーリング
   リストを作ったの。そのメーリングリストでしばらく情報交換や
   企画提案してましたね。
杉江 それともう一つの飲み会が三省堂書店の内田さんと本の雑誌社のホームページのスタッフが集まっ
    た飲み会なんです。それはホームページの連載の打ち合わせだったんですけど、ちょうど横山秀
   夫さんの『半落ち』
が直木賞を落ちたときで、もうお仕着せの賞じゃなくて自分たちでやった方が
   いいんじゃないかって、酔って大騒ぎしていたらシステム担当者がネットを使えば出来るよと具体
   的な話をしだした。
古幡 それで実際に何が出来るんだろうということで集まったのが、本屋大賞実行委員会の元になった集
   まりですね。
杉江 そう言えば正式に集まる前に僕と古幡さんで博報堂に行きましたよね。博報堂は「本の雑誌」のホ
   ームページを運営している会社で、その担当者が無類の本好き。一緒になって何かしようって盛り
   上がっていた。
古幡 あの時の思い出といえば田町で道に迷って杉江さんが走って来たことくらいしか記憶に無いんです
   よ(笑)。
杉江 博報堂のエレベーターに乗った時に「プロジェクトXだったらこのシーンは出るよね」って言い合
   ってましたね(笑)。
古幡 言ってた(笑)。
杉江 博報堂に行った時はまだ書店員さんはいなくて、なんかやりたいけどどうしたらいいんだろうって
   いうのを裏方だけで話し合った。それで僕たちは出しゃばらず、書店員さんたちが必要なものを作
   るバックアップをしようって。それでその手の話に興味がありそうな書店員さんたちに声をかけて
   最初の会議を開いた。
古幡 2003年の5月くらいかなあ。
杉江 それから毎月集まって、三、四カ月かけて何をするか決めていったんですよね。
古幡 毎回会議がすごい盛り上がったし、熱かったよね。
杉江 熱かった。一冊選ぶのは嫌だとか、12月にやろうとか。
古幡 点数制についてもすごい議論した。
杉江 二次投票制もそうだし、その二次投票で何冊読むかとか。
古幡 本屋大賞って名前を決めるのもけっこう揉めたんですよね。
杉江 「さん」をつけるのかどうか最後まで話し合った。「本屋さん大賞」。でも自分たちが本屋なのに敬
   称をつけるのはおかしいということで取ったんです。
古幡 でも本屋大賞だと本屋を表彰する賞にならないかとか。他の候補に何があったか全然憶えてないん
   だけど。
杉江 横文字にするのはやめようって言ってた気がする。
古幡 それで最終的に「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本 本屋大賞」に決まった。その時、会
   議室にあったホワイトボードに誰かが書き出したんですよね。それをみんなで写真撮ったのは覚え
   ている。
杉江 そうそう、みんな携帯を取り出して写真を撮った!
古幡 あの写真、それから見たことないけどね(笑)。

杉江 あのとき実際、古幡さんはどう思っていたんですか?
古幡 若かったですからねえ。28歳くらいなんですよ。
杉江 僕も30歳。
古幡 本がどんどん売れなくなっていて、なんかやらなきゃって考えていたと思います。
杉江 2003年の出版売上って2兆2278億円で、2014年の1兆6,000億円に比べたらずっといいんだけ
   ど、何年も落ち続けていたのでとにかくもうヤバイみたいな危機感がありましたよね。だって僕、
   坂本龍馬になるって言ったもん。
古幡 言ってた(笑)。ただ、マイナスのものをどうしようかっていう感じではなくて、とにかく僕たちは
   売るのが楽しいみたいなものが発端としてあった。この気持ちをもっと形にしようみたいな。

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杉江 実行委員は伊坂幸太郎さんにあげる気満々でしたよね(笑)。ちょうど『重力ピエロ』が出た頃で、
   こういう若くて才能のある作家を押し出す賞を作らないといけないって。
古幡 『陽気なギャングが地球を回す』も出た年で。私も絶対伊坂さんって思ってた(笑)。
杉江 それと直木賞の『半落ち』問題で、横山秀夫さんに獲らせたいという思いが交錯していた。ところ
   が蓋を開けてみたら小川洋子さんの『博士の愛した数式』が第一回の受賞作に。
古幡 『博士の愛した数式』が受賞したことが、本屋大賞にとってものすごく良かった。
杉江 本屋大賞のカラーはあれで決まりましたね。『博士の愛した数式』が獲っていなかったら、こんなこ
   とにはなっていないと思う。
古幡 毛色が違っていたよね。
杉江 『博士の愛した数式』が受賞したことで、文学とエンターテインメントの境界線上にあるような本
   が選ばれるようになり、後に様々なジャンルを飲み込んでいった。
古幡 あとは『博士の愛した数式』の受賞によってすごく透明色が出た。小川さんにみんな心洗われたも
   んね。私たちもこの賞を作って良かったって。
杉江 一回目で横山秀夫さんが獲っていたら、打倒! 直木賞って側面がもっと鮮明になっていたかもし
   れない。
古幡 理事長も発表会の挨拶で言っていたし(笑)。どこかで対抗色を薄めたんだよね、なんとなく。
杉江 打倒しちゃ文芸書の売上が減っちゃうと気づいた(笑)。共存共栄の方向に転換したんです。
古幡 やっぱりすべてにおいて一年目がいちばん大変だったね。
杉江 一年目の発表のときは日販には戻っていたんでしたっけ?
古幡 戻ってた。
杉江 ゴールデンウィーク前とか大変じゃありませんでしたか? 『博士の愛した数式』がないぞ!!!
   って。
古幡 もう毎回言われてるからどこで言われたのか分かんない(笑)。
杉江 発表してすぐはまだ今ほど爆発的じゃなかったんだけど、しばらくしてテレビで採り上げられたり
   して一気に売れちゃって重版が全く間に合わない。
古幡 今ほど出版社も重版してなかったしね。新潮社もどれくらい刷っていいのか真剣に悩んでいた。
杉江 海の物とも山の物ともわからない新参の賞ですから。
古幡 よくやってくれたと思う。だって発表会当日になってもどういう発表会になるか想像もつかない会
   だったじゃないですか。
杉江 難しかったと思います。書店さんだって投票したお店はフェアコーナーを作っていましたけど、投
   票してない人は別に気にもとめてなかった。新潮社からなんか変な帯がついたのが入って来たくら
   いの認識だったんじゃないですかね。
古幡 最初なんて投票人数百九十人くらいですから。やっぱりメディアの力がすごかったよね。
杉江 新聞や雑誌も熱を入れて紹介してくれたし、NHKと王様のブランチが紹介してくれたのが大きか
   った。
古幡 そういう方面の人と出版業界がちゃんと手を組んだのが初めてだったんですよ、きっと。
杉江 芥川賞や直木賞のネット中継も今みたいにしてませんでしたからね。

古幡 本屋大賞の画期的だったところは、発表後に時間が経って本が並ぶんじゃなくて、事前に準備をし
   ておいて当日には本屋さんに受賞作がドーンと並んだことだと思います。あれはやっぱり売り場の
   人たちが作った賞ならではの発想だった。
杉江 発表日には絶対本があるようにしてくれっていうのは実行委員の書店員さんが最もこだわり、苦心
   したところですよね。確かにその仕組を一回目で作れたのは大きかった。

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古幡 一回目を迎えるまでにとにかく色んなことを話し合って、これ以上ないという仕組みを考えたのが
   成功の秘訣だったんでしょうね。
杉江 そのおかげで12回も続いている訳で……。まあ、よく続いてますよね(笑)。
古幡 本当にね。会議ではケンカもするしね。わりとガチで。
杉江 お互い感覚が違うから議論が激しくなることもある。
古幡 立場も違うしね。
杉江 しかも実行委員のメンバーってみんな癖がある人じゃないですか(笑)。
古幡 考えてみれば選りによってよく集めたねってメンバーだもんね(笑)。
杉江 それがみんな思ったことを言い合う訳ですから大変です。会議としては正しい会議なんですけど。
古幡 全員やり方が違うけど目的地だけは一緒。実行委員が同じ乗り物に乗ったことは一回も無いかもし
   れない(笑)。
杉江 ああ、なるほど。それはそうかもしれない。自転車で行く人もいれば、車の人もいる。
古幡 山手線で隣の駅なのに逆回りする人とかね。
杉江 でもゴールが一緒だから我慢出来てるのか。
古幡 元々みんなが集まった時に会社で本の話ってしてる? って話題になったんですよ。実は本を読ん
   でもその話を出来る相手が意外と少なかった。だからみんなで本の話をどんどんしようって。
杉江 それって古幡さんと僕が初めてあった深夜プラス1の浅沼さんの名言と一緒ですよね。「面白い本は
   独り占めしちゃいけない」。
古幡 そうそう。面白い本はこっそり読まないで、みんなで共有しようって。
杉江 それが本屋大賞の核なんですよね。
古幡 そう、原点はそれ。これからずっとね。



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 遺言、と言うとひどく大げさに聞こえてしまうが、私が死んだ時にしてほしいことがひとつだけある。
 もしも 私が死んだら、私の死を悼む時はどうか時計の針を午前10時30分で止めてほしい。
親でも旦那でもなく、従姉にだけ伝えておいた私のこのささやかな遺言を公言しようと思えたのは、今年の本屋大賞の二次投票で辻村深月さんの『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)を読んだからだ。
 それまで私は二次投票で吉田修一『怒り』(中央公論新社)を一位にするつもりだった。気合の入ったコメントも書いた。けれど、最後に読んだ『ハケンアニメ!』にひっくり返された。

『ハケンアニメ!』はアニメーションをガチで愛する大人達のお仕事小説だ。
 今の日本で、アニメはもはや子供たちだけのものではなくなっていることは周知の事実だが、そのアニメを作っているのはいい歳をした大人たちなのだという、当たり前の事実に愕然とした。
 アニメは、いや世の中のありとあらゆるカワイイは(カッコイイもだけれど)大人達の手で生み出されているのだ。
 そう。10時半というのは小学生の私がその30分だけを心の支えにしていたアニメの放送時間なのだ。
 人生の転機となるきっかけは一枚のCDだったり、一本の映画だったり、人それぞれだろう。それが私にとってはたまたまアニメだった。週に一度心の逃げ場所が出来、イベントに参加するようになって外に知り合いがたくさん出来た。劣悪な子供時代を過ごしていた私に家でも学校でもない私の居場所を作ってくれた。
 ちなみに私の金銭授受と接客の基礎はコミケで培われたと思っている。
 今でこそ恥ずかしくなくなったがオタクと呼ばれる後ろめたさをこの『ハケンアニメ!』が一蹴してくれた。オタク上等! アニメが好きで何が悪い!

 投票コメントにはさすがに織り込めなかった遺言をこの場をお借りして書かせていただきます。。。
『ハケンアニメ!』を読み終え、ずっと迷っていたそのアニメのメモリアルDVDBOXを買う決心がやっとついた。分割払いでだけど……。
 たけーよ! 日本のアニメ!                  【成田本店 みなと高台店(青森県)櫻井美怜】



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 小手鞠るい『アップルソング』(ポプラ社)
読み始めた瞬間、私は終戦の焼け野原の瓦礫の中に立ちすくんでいた。読了してからも、報道写真家・茉莉江は、血の通った実在の人物として、私と同じ時代の中に生きていたと感じ、疑いさえしなかった。浅間山荘事件のVTRのどこかに彼女の姿が探せるはずだと、ウィキペディアで探せなかったにも関わらず。2014年に読んだ中で、もっと多くの方に手にとっていただきたかった本。

 安藤祐介『おい!山田』(講談社)
全方向へ大声で『おい!山田』を読め! と叫びたい。いや、叫ぶ!! 組織の部署のしがらみとか、そんなもんぜーーんぶ取っ払って、目指す方向は一緒なんだから、力を合わせようぜ! って。この本を読んだら、組織の中で働くって実は楽しいんじゃない? って気持ちが強くなる。会社の中で、自分の進む道に迷った貴方に、この本を捧げます。

 柚木麻子『本屋さんのダイアナ』(新潮社)
この本は大賞にノミネートされてから読んだ本の中でもとびきりキラキラして、可愛くて優しいどんな方にもオススメの本です。「大穴」と書いて「ダイアナ」と名付けられた主人公。派手なキャバ嬢の母・ティアラの全くブレない信念のもと、悩み、反発しながら時を経て、すれ違いから一度仲違いしてしまった親友と共に大人へと成長する物語。ダイアナと言う名前に隠された真実と、母ティアラのついた嘘に切なくなったり、ダイアナと彩子がお互いに憧れているのに、その事実を知らないもどかしさも、可愛らしくてときめきます。
                                         【黒木書店 白水店(福岡県)原田みわ】



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私の一次投票はこちら。
1位 『笹の舟で海をわたる』角田光代(毎日新聞出版)
2位 『絶叫』葉真中顕(光文社)
3位 『四月一日亭ものがたり』加藤元(ポプラ文庫)

 例年少なくとも一作品はノミネートされていましたが、今年はとうとう一つもノミネート作に残りませんでした。
 そしてノミネート十作品が発表されてから二次投票の読書が始まったわけですが、今回はごめんなさい。途中で挫折(リタイア)してしまいました。
 全作品を読んでコメントを書かなければならないルールなのに、コメントが書けない作品にぶち当たってしまったからです。
 批判的に聞こえるかも知れませんが、決して本屋大賞を否定しているものではないことをご理解ください。こういう参加者もいるということで。

 私もそうですが、『本の雑誌増刊「本屋大賞」』で全作品のコメントを読むのが毎年の楽しみという読者はたくさんいらっしゃいます。
 そして、いつかは行きたい発表会。参加書店員の特権ですからね。それも、一次投票から1位で推す作品が受賞作だったら最高かな。                   【明林堂書店 大分本店(大分県)前畑文隆】



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 自分は子どもの頃からマイノリティとして生きてきた。授業中、教科書に挟んで文庫本を貪り読んでいたのは私だけだったし、学生時代に好きなバンドはCRY《 mu 》( 誰も知らないインディーズバンド・しかもいちばん人気のないシンセギターの人のファン )だったし、サーティーワンでアルバイトしていた時は、従業員でも「うぇー」っと言うほどクセのある、蛍光ピンク色でどぎつい薔薇味の「ターキッシュディライト」が大好きだった。

 ちなみにバンドはメジャーデビューできないまま解散したし、季節のおすすめとして登場したターキッシュディライトは、その後二度と店頭に並ぶことはなかった。いつだって大好きなものは他人に理解されない。いつからか、大好きなものを誰かと共有することを諦めていた。ひとりでライブに行き、ひとりでアイスを食べ、私が読書好きであることは誰も知らない。

 しかし本屋でアルバイトを始めると、私がマイナーだと思っていたお気に入り作家を、自分も好きだと言う人たちに、たくさん出会うことができた。私が愛するものは、誰が何と言おうと愛しい。世界中から批判されても、揺るがない。でも、それを愛する人が私だけではないと知った時の心強さたるや! 安堵と喜びと興奮たるや!! 私は寂しかったのだ。寂しくなくなって初めて気付くほどに、ずっと寂しかった。

 本屋大賞の投票は、そんな私にマジョリティの喜びを与えてくれる。何しろ、自分が一次投票から一番面白いと思っていた小説が、もう二度も、大賞を受賞しているのだ。おまけに、毎年ノミネート作品が発表されると、八割以上が既に読んでいて、面白いと思ったものだった。2015年にいたっては、十作品全てを読んでいた。なんというマジョリティな読書傾向。もはや私のことは、歩く本屋大賞と呼んでくれてよい。
                                     【三省堂書店 有楽町店(東京都)新井見枝香】



PART2に続く⇒
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by haredoku | 2015-04-07 19:41 | 『はれどく 別冊』私の本屋大賞 | Comments(0)