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全国の書店員による、おすすめ本のフリーペーパー「晴読雨読」通称"はれどく"の公式ブログです。


by haredoku

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『はれどく』4号 その1 「あったまる」本

『はれどく』4号!



表紙
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目次
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身体も心も「あったまるもの」がでてくる物語
【山下書店南行徳店(千葉県)/髙橋佐和子】
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おや、お子さんがお外に行くようです。お母さんに「温かくしなさい」と注意されていますね。まずは、帽子をかぶりましょう。お気に入りのあの帽子。佐野洋子『わたしのぼうし』(ポプラ社)。大好きな帽子をなくしてしまうお話です。新しいものも嬉しいのですが、愛着があるものは安心感をもたらしてくれるような気がします。
お次はマフラー。
さとうわきこ『ばばばあちゃんのマフラー』(福音館書店)。お手製のとっておきマフラーをプレゼント! ページを捲ると季節が変わり、いつの間にか最後はボロボロ。でもね、とっても優しいお話なんだよ。
おてても冷えちゃう。
ふくだすぐる『ぼくのてぶくろ』(岩崎書店)。絵だけで理解できて、ほっこりする雰囲気をもっています。てぶくろを追いかけていくお話。探してみてね。
あったかくしたお子さんは元気に遊びに行きました。ポケットに飴を詰め込んで。
鈴川ひとみ 作/いもとようこ 文絵『ポケットのなかで』(金の星社)。こころちゃんのポケットのなかで出会ったピンとボタンのお話。不覚にも泣いてしまった。もしかしたら結婚式のときにプレゼントしたら良い絵本かも。
寒い寒いといいながら帰ってきたお子さんはあったかいお風呂に入ります。
とよたかずひこ『ごくらくももんちゃん』(童心社)。ももんちゃんがお風呂に入っていると、次々にどうぶつたちがはいってきます。不思議で優しいお話。
さぁ、お夕飯を食べてお布団で寝ることに。「あれ? なんでこんなにあったかいの?」
きたむらさとし『わたしのゆたんぽ』(偕成社)。ゆたんぽがわたしから逃げてしまうお話。足で追いかける絵がとっても面白い。足がどんどん伸びていくー。
お母さんお父さんおやすみなさい。いつものやって。
ジェズオールバラ作『ぎゅっ』(徳間書店)。こどもは親がぎゅっとしてくれるだけで、愛されていると思います。大人も同じ。ぎゅっとすることが、笑顔の秘訣かもしれないですね。この絵本は言葉こそ少ないですが、一番大事なことを伝えてくれます。

小さいころから絵本を読んでもらっていたお子さんは、大きくなり大好きな本に囲まれて、毎日元気に働いているようです。本から伝わる想いを全身で感じながら。あったまる物語、これにておしまい。


ハッピーエンドには、読むだけで幸せになる力が秘められているのだ。
【紀伊國屋書店横浜みなとみらい店(神奈川県)/安田有希】
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「めでたしめでたし。まる。」
昔から、これで終わるお話が大好きだった。
一冊読む間にどっぷりと感情移入した自分の分身のようなキャラクターが、最後どうして幸せにならずに終われようか。いや終われまい。(反語)
 ハッピーエンドには、読むだけで幸せになる力が秘められているのだ。
例えばあの本! と紹介していきたい気持ちに駆られるが、「読む前にラストを知りたくない!」という相反する気持ちも分かる。わたしもその気持ちは持ち得ているからだ。知りたい。でも知りたくない。そこは複雑なハイブリッド機能。
・・・しかし話したい。
「知りたくない派」なあなたは、申し訳ないが今すぐこのページを不幸な製本ミスだったと思って飛ばしていただけないだろうか。・・・すまない。この借りはいつか返・・・せるといいな。

さて、前置きが長くなったがまず紹介したいのは宮下奈都『誰かが足りない』(双葉社)だ。
タイトルではハッピーエンドだと思わないかもしれない。読んでみても、「めでたしめでたし」なのか最後は本文には描かれていない。けれど読み終わって本を置いたとき、きっとあったかな気持ちで「ほうっ」と幸せなため息をつくのではないかと思う。その気持ちこそ、小説の醍醐味のひとつではないかなと思うのだ。
そして、次に山田南平『紅茶王子』(白泉社文庫)。「めでたしめでたし。まる。」というのを聞いてまずわたしが思い浮かべたのは、実はコミックのこの作品だった。突然紅茶から王子様が現れて(紅茶好き)、しかもそれがかわいカッコよくて(ちびっこ好き)、最後もハッピーエンドとくれば、わたしの私的王道のめでたしエンディング№1ではないか。
現在は『桜の花の紅茶王子』という新シリーズも始まっているけれど、全25巻に及んだ初代『紅茶王子』はやはり特別な作品だった(現在はコミック文庫で全12巻)。
ハッピーエンドとは少し違うけれど、あったかい気持ちが詰まっている写真集サチコ・ジョンソン『ことばはいらない』(新潮社)も、大好きな本のひとつ。
兄弟のような一茶くんと柴犬マルの毎日の日々。同じ柴犬と暮らすわたしの目にも、ふたりが安心し信頼し守り守られているのが分かる。言葉はなくても気持ちは通じる。それを体現するような本だ。一茶くんとマルの間に流れている空気があたたかいからこそ、それを見るこちらにも伝わってくるのだろう。
 そして最後に紹介したいのは、彩瀬まる『あのひとは蜘蛛を潰せない』(新潮社)。
わたしも蜘蛛は潰せない。できないことも弱いところもいっぱいあるけれど、それを恥ずかしいと臆さずに「自分はそうなんだ」と肯定できる、静かに前を向いていける本だ。
しかしどうしてこれを「あったまる本」に選んだかお分かりだろうか。
読み終わった最後の最後。奥付を見てほしい。
作者名「彩瀬まる」さん。

めでたしめでたし。まる
あった。まる。


湯あたり注意! 読書で温泉三昧♨
【明林堂書店大分本店(大分県)/前畑文隆(大分県温泉マイスター)】
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「温泉」という言葉は「旅」と同様に非日常を連想させ、それだけで楽しい気分になりますよね。
まず、いつもと違う場所で裸になるという行為そのものにより日頃味わえない開放感が得られ、さらに心地良いお湯にどっぷりと浸かることで物理的・肉体的にほわーーーっと・・・。

♨吉田修一『初恋温泉』(集英社文庫)は国内五カ所の温泉地での様々な関係の男と女の物語五編。日常から離れた場所だからこそ気付くこともあるのです。
おすすめはランプの宿で有名な青森県青荷温泉が舞台の「白雪温泉」。

『つげ義春の温泉』(ちくま文庫)。つげさんの作品には温泉宿が数多く登場し、主人公はいつも首からカメラを提げています。
そのカメラで撮り貯めた(と想われる)写真集がこれ。モノクロの世界はつげさんの漫画そのもので、鄙びの温泉宿が50年前にタイムスリップさせてくれます。

♨銀色夏生さんは宮崎県えびの市のご出身。『南九州温泉めぐりといろいろ体験』(幻冬舎文庫)では霧島周辺の有名無名の温泉を巡ります。
こちらはカラー写真391点! 小学校時代の同級生くるみちゃんとの二人旅にほっこりさせられます。ご本人の入浴写真も♡

♨表紙買いしてしまったのは浅田次郎『アイム・ファイン!』(小学館文庫)。頭にタオルを載せたおじさんが浴槽にぼーっと浸かっている表紙イラストがなんとも魅力的。
この中で浅田さんも仰ってます。「この町がなぜ世界遺産に指定されないのか」。そうなんです! 温泉湧出量の世界第一位はアメリカのイエローストーン(もちろん世界遺産)ですが、それに次ぐのがわが別府温泉郷。
世界遺産に登録されても全く不思議ではないんですよぉ。(誰に向けて?)

♨有栖川有栖(編)『小説乃湯』(角川文庫)。読書と珈琲、読書とお酒のように「読書とお風呂」にも「親和性がありそう」という発想を基に編まれたアンソロジー。
式亭三馬「浮世風呂」から現代の作品まで「小説でお風呂のシーンが印象的に描かれ」た短編12編が収められています。

♨温泉じゃなくても『ウチ風呂の作法』(エンターブレイン)。あの「テルマエ・ロマエ」の「公式オフロ本」です。ルシウスと一緒にお風呂を学びましょう。
歴史、入浴法、マナー、牛乳石鹸、バスクリン、ケロリンまでお風呂にまつわる蘊蓄がいっぱいです。

ふぅぅ。さあ、温まりしたね。それではそろそろ、湯上がりの一杯でお別れです。「ぷしゅー」。


北国にならうはしご酒のすすめ
【丸善津田沼店(千葉県)/酒井七海】
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寒い寒い国はたいていどこも酒場が賑わっていて、強い酒をカパカパやるのが当然だったりする。あったまるためである。
お酒の場には必ず出会いがあり、ドラマがある。冷えた体だけじゃなく、心までなんだかぽかぽかしてくる場所。
そんな暖簾の向こう側を好き勝手に覗けるのが本のいいところ。
というわけで、今日はちょいと酒の本ではしごしようじゃありませんか。

やあやあ、まずは一軒目! いろいろ楽しめるやつをひとつ。
吉行淳之介編『酔っぱらい読本』(講談社文芸文庫)。丸谷才一、太宰治、志賀直哉など錚々たるメンバーによるお酒のアンソロジー。文豪も酒に酔えばただの人っていうのもいるし、さずがくずれないねぇっていうのもいる。太宰治の「酒ぎらい」は一読の価値あり。傑作です。ちなみに『続・酔っぱらい読本』もでていて、こちらは戦争とからんで若干重め。でも、笑えるものは腹抱えて笑えますので、気に入ったらぜひ。

さて、ぼちぼち二軒目行きますか。お次は少し腰を落ち着けてみませう。
山口瞳『行きつけの店』(新潮文庫)。タイトル通り行きつけの店を紹介する名著。でも決してガイド本ではない。酒や料理の話はこの本の中では脇役である。核となるのはその店の店主たちとのやりとり。
店は人がやるもの、そして客が作っていくものだ。この本を読むと本当にそう思う。そこに灯ったあったかい光は決して消えない。著者と店主の気持ちのやりあいがまたいいのなんのって。こういうかっこいい呑み方をする人、あこがれるね。

さてさて、もう一軒行こうじゃないか。え、足がふらついてるって? なーに言ってんだぃ。つまずいただけでぃ!
大竹聡『ぜんぜん酔ってません』(双葉文庫)。そんなこと言って毎日ベロベロですがなっていうのがこちらです。大竹さんはとにかく呑む。毎日呑む。二日酔いでも呑んでるうちにすいすいいけるようになってしまう。その呑みっぷりが気持ちいい(気持ち悪いという声も……)。そして、酒場で生まれるこれまたメロメロメロウなドラマに、酔いが移ってゆるんだ涙腺で号泣という落とし穴もある。こちらも続編『まだまだ酔ってません』が絶賛酔っぱらいちゅう。

さぁそろそろおいとましましょうか、酒場に長居はいけません。
え? 頭が痛い? それはいけない二日酔いだ!
そんな翌日の朝にはこちら北大路公子さんの『生きていてもいいかしら日記』(PHP文芸文庫)。昼から酒を呑みまくるアラフォー女子、公子さんの抱腹絶倒日記で自分まだ大丈夫、、、となぐさめるべし。


風呂場と鍋物であったまる
【紀伊國屋書店グランフロント大阪店(大阪府)/星真一】
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 いっとき、半身浴を習慣にしていたことがあって、『吾輩は猫である』とか『旧約聖書』だとか、いつか読みたいと思いながらなかなか読み進まなかった、ありていに言うと何度も挫折してばかりだった小難しい本を、ちびりちびりと読んでいた。風呂場のいいところは読書に余計な雑念が入らないこと、困ったところは湿気と汗で本がふやけることだ。それでも捨てるにしのびないので、今も本棚のすみにしまってある。
 くたくたになるほどくりかえし読んだのは大岡信の『百人百句』(講談社、品切)だった。古典から現代まで百人の俳人の代表的な百句を選び、「折々のうた」の大岡信が解説を書き下ろした名著。単行本を品切れにしたままならば、学術文庫か文芸文庫に入れてくれればいいのに、という恨みごとはさておき、この本ではじめて出会って、棒で殴られたような衝撃を受けたのが、久保田万太郎の〈 湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 〉という俳句だ。湯豆腐という、冬場はどこの家庭でも供されるような献立と、「いのちのはて」という刃物のようなことばの対峙。団欒の象徴、身も心もあったまるはずの鍋物が、しらじらとしたうすあかりを照りかえし、老いて孤独な男の横顔を浮かびあがらせる。その豆腐の、残酷なまでの白さ。しんとした、痛いほどのさびしさ。
 ひとりはさびしいけれど、ふたりだってさびしい。だから、さびしさをわけあって食べる鍋もある、きっと。川上弘美の「冬一日」(新潮文庫『おめでとう』所収)はぞくりとするほどせつない短篇だ。不倫どうしのふたりが鍋を食べる、たったそれだけの話があまりにすばらしくて、ひと肌恋しい季節にはいつも読みかえしてしまう。歳末で帰省した弟の部屋、鍵を預かった男がたまにはゆっくり過ごそうと女を誘う。〈 二人とも、たくさんの嘘をついたにちがいなかった。いつもの逢瀬に必要な嘘の何倍もの嘘を 〉いつもとはちがう場所の、くつろいだ空気のなかにほろほろこぼれ落ちることば。〈 いつも、こんなふうにしてたいね 〉シリアスになりすぎないように、あやういバランスのうえで鍋をつついて。〈 あのさ、俺さ、百五十年生きることにした 〉男の唐突な宣言にはなんの根拠も裏づけもなく、でも、どんなプロポーズよりあたたかい。
by haredoku | 2014-01-09 18:13 | 『はれどく vol.4』